そんな感じで始まった2人の生活は、
あっという間に2ヶ月が経ち、
季節は紫陽花が咲く梅雨の時期に移り変わる。

花は大学三年生になり、実習やレポートの提出も増え始める。
それでも主婦業は手を抜きたく無いと思う。

いろいろ悩んだ挙句、ついにバイトを辞める決心をした。

それを聞いて1番安堵したのは柊生だった。

学校を終えた後にバイトに行く花を誰よりも心配し、帰り道、自転車で帰る事さえハラハラしていた。

そして今日、バイト最後の日。

今までお世話になった同じ時間帯のバイト仲間に挨拶をして帰る。

「また、旦那様と一緒に顔出しでね。」
相変わらず柊様ファンのオーナーはそう言って花を送り出す。

「今までいろいろお世話になりました。
また、買い物に来させてもらいます。」
そう言ってお店を後にする。

すると、駐車場で柊生の車を見つけびっくりする。

あれ?今日は夜勤だって言ってたはずなのに⁉︎

ガチャっとドアが開いて柊生が降りてくる。

「お疲れ様でした、花。」
そう言って、花束を渡してくれる。

サプライズにびっくりして、目を瞬かせて柊生を見る。
「あ、ありがとう……
今日は夜勤だって言ってたよね?」

「花をびっくりさせたくてね。
今から出かけるから、早く車に乗って。」
そう言って助手席のドアを当たり前のように開けてくれる。

「えっ⁉︎今から?どこ行くの?」
花は驚きながら車に乗り込む。

「着くまで内緒。お腹は空いて無いか?」

「まだ、大丈夫。」
花は戸惑いながら柊生を見つめる。

「よし、じゃあ着いてから食べればいいな。
では、出発します。ご主人様シートベルトを忘れずに。」

一緒に住むようになってから、
柊生はたまになぜがご主人様と花を呼び、
執事のように身の回りのお世話をしたがるのはなぜだろう、と思うけど。

特に聞く事もなく今まで過ごして来た。
けれど…

「ねぇ、柊君。何でたまにご主人様って呼ぶの?」

「今更聞くのか?
花が俺をよく犬みたいだって言うから、
それならいっそ、花の忠犬になろうと思ってるんだけど。」

「そっち⁉︎」

「何?どっちだと思ってた?」
可笑しそうに笑いながら柊生が聞いてくる。

「ご主人様って言ったら執事でしょ?」
花は戸惑いながらそう言う。

ハハッと笑って
「そっちか。」
と柊生は言う。

「まぁ、どっちにしろ俺は花には絶対服従だから。この際どっちでもいいな。」

「側から見たら、柊君が亭主関白に見えてるみたいだよ?」

「それは…誰情報?」

「えっと、詩織ちゃんが言ってたから。
柊様は、家ではどんと座って動かなそうだって。」
ふふっと花は笑う。

「いつの時代の男だよ…。
こんなに花に尽くしてるのに。」
ムスッとした顔をする。

「別にそんなに尽くさなくてもいいのに…
柊君は私に過保護過ぎだよ。もうちょっと、どんと座っててくれてもいいと思う。」

花は日頃から思っていた事を思い切って言ってみる。

「それは…無理だな。
もはや花に尽くすのは俺のライフワークみたいなものだから、辞めたら死ぬ。」

「それはさすがに大袈裟だよ…。」

「花が自分をいつも後回しにして俺の為に尽くそうとするからだろ。
俺が花を大切にしないと誰が花を労わってやれる?」

「そう言う発想なんだ……。
私はただ、柊君はいつも外で頑張ってるから、せめて家ではのんびりして欲しいなと思ってるだけだよ。」

「俺だって花にのんびりして欲しい。
俺達はそれで良いんだ。俺は花を構って癒されてるから大丈夫。」

そう言って笑う柊生は、
本当にずっと変わらず優しい旦那様で、
ケンカの一つもした事が無い。