「ねぇ、恵奈ちゃん。恵奈ちゃんは、どうして七海学園に来たの?」
「私は……」
「もしかして、この前の電話と関係してる?」
圭吾の言葉で、恵奈の顔が陰る。
恵奈は目を閉じ、深く息を吐いた。
自分のことを、この学園で誰かに話すつもりはなかった。誰も知ってくれなくていいと思っていた。
でも、今は話したかった。自分のパートナーに。
「この前の電話は、私のお姉ちゃんからかかってきたの。私のお姉ちゃん、最近結婚したんだけど、その相手はね……私の初恋の人なの」
圭吾はじっと黙って耳を傾けている。
恵奈はもう一度深呼吸し、覚悟を決めて口を開いた。
「彼ね、私の家庭教師の先生だったの。私、昔から内気で、人とうまく話せなくて。でも拓馬さんは、私のことわかってくれて、優しくしてくれた。運命の相手だって思ってた。……でも、彼の本当の運命の相手は、お姉ちゃんだったんだ」
恵奈が学校から戻ると、リビングのソファに姉と拓馬が腰掛けていた。いつもとは違うスーツ姿の彼に、恵奈の心はざわついた。
姉は立ち上がると恵奈を抱きしめ「私、拓馬と結婚するの!」と言ってきたのだ。
その日から、恵奈は自分を押し殺して暮らすことになった。
「新居が決まるまで拓馬さんがうちに住むことになるって聞いたとき、さすがに一緒にはいられないって思った。それで、寮があるこの学校に来たの。あと、運命の相手、なんて掲げてるこの学園に、文句つけたい気持ちもあったかなぁ」
恵奈は、低くかすれた笑い声を漏らす。その表情は笑顔でも、冷めたものだ。
「わかってる。私はただ優しくされて舞い上がってただけ。拓馬さんの眼中には全然入ってなかったってこと……」
そう。運命の相手だなんて、自分がそう勘違いしていただけだった。

