「加村さ……。」

状況を説明しようとしたあたしの横を通り抜けて、男性店員は、さっきのおばさんに話し掛ける。

「お待たせしております。只今、コーナーの方にご案内します。」

スマートな応対に、女性客は、コロッと態度を変える。

「あらっ!?来たわね。よろしく。」

おばさんは、ニコニコと微笑みながら、カウンターを離れて行った。


その姿を遠目で見ながら、あたしはイライラする。

(何アレ!加村さん、あたしを無視して、あんな色目を使ってくるお客さんには親切にして。)

不毛。

完全に不毛な嫉妬をしていた。

そう、あたしは、加村(かむら)悠輝(ゆうき)さんのことが好きなんだ。

バイトに入って、まだ少ししか経って無いから、名前と、ちょっとの情報くらいしか知らないんだけど。

彼はこのバイトは始めて2年近くらしい。

年は、20歳くらい……、大学生なんじゃないのかな?

シフトも、月曜の正午からとか木曜の午前とか、高校生であるあたしには入れない時間帯に入ってるから。

土曜である今日だけが、一緒に働ける嬉しい時間なんだ……。