……この感情は、「恋」なのだ。

俺は、ずっとそう思ってきた。

二年半程前に知り合った、新橋亜犁安先生。

彼女は、臨床心理士という職に就いている。

周りの人や物がセピア色だった、俺の苦い記憶。

一生忘れられない、今でも思い返すと辛くなるあの時のこと。

そこに、色を加えてくれたのが、亜犁安さんだった。

……ちょっとクサい言い方だけど、それは真実。

初めて会ったのは春。

「臨床心理士は、カウンセラーさんのことよ。」

そう、母親に勧められて対面したのが、亜犁安さん。

俺は、その「カウンセラーさん」から、どんな嫌な記憶を引き出されるのか、どんな心理検査で心の中を覗かれるのか、すごく心配だった。

けれど、実際に話してみた白衣を着た彼女は、全然イメージと違って。

「今日は、ぽかぽかしていて気持ち良いわねぇ。」

「今日は、家で何をしてたの?読書?良いわね。先生も本は好きよ。」

そんな、正直どうでもいい話ばっかりで。

でも、内心ホッとしていた。

ーこの人は、俺を傷つけたりしないー

そう、段々と思えてきたからだ。

けれど、1年くらいカウンセリングを受け続けていた頃だろうか。

俺は、亜犁安さんの一言で、酷く傷ついてしまった。