あたしが、ルンルンとスタッフルームを後にしようとすると、加村さんが追って来て、何やら紙切れのような物を持って来た。

「観月さん、これを。」

あたしは、裏が白紙になっている紙を渡された。

「戸町支店、リニューアルオープンの計画書です。家で読んで来てください。」

「はい。ありがとうございます。」

あたしは、加村さんが持って来てくれた書面にチラッと目を向けた。

(!!)

ふいに、何かを思い付く。

「あのっ、分かんないトコあったら、電話して良いですかっ!?」

あたしの突然のお願いに、加村さんは少し驚いたようだった。

「…………。」

(あ、黙られちゃったよ。ヤバい、ヤバい!)

「あはは、なんて!駄目ですよねっ。いくら、仕事の内容と言え、プライベートの携番聞くなん… て。」

加村さんは、あたしが顔を赤くしてお願いを撤回している内に、ボールペンで白紙のスペースにサラサラと数字を並べた。


080-XXXX-1234


「不慣れなことあるだろうし、良いよ。掛けてきて。」

「っあ!」

(そ…外が少し暗くて良かった。顔が熱い…。)

「ありがとうございます!」

(加村さん、やっぱり優しいな。敬語じゃない時の喋り方も好きだなぁ…。)

「じゃあ、俺、休憩終わるから。」

後ろを向いて、右手をあたしに向かって振りながら、加村さんは暗闇の中に消えて行った。