「店長と言えば。」

スタッフルームのドアを開けてくれながら、加村さんは小声で言った。

「体調大丈夫?あの日、俺と話した時に気分が悪くなったみたいだけど。」

(…………え?)

(心配、してくれてたの?もう、あの日のことなんか、忘れてると思ってたのに。)

急に嬉しくなって、あたしはテンパりながら、質問に答えた。

「だっ、大丈夫です!それに、加村さんのせいじゃないですよっ!」

スタッフルームの入り口で、わあわあ喚いていると、

「あはは。いつも観月ちゃんは、元気だね!でも、もう少し静かにね。」

ドアを閉めながら、「お客様が居るからね。」と、店長に言われてしまった。

(うわ!恥ずかし!加村さんの前で注意されちゃったよ。)

加村さんは、そんなあたしを気にすることなく、

「それで、店長、お話とは?戸町(とまち)支店のことですか?」

と、話を始めた。

「そうそう。今度、戸町がリニューアルオープンやるからね。」

(へー、そうなんだ。お客さん、いっぱい来るだろうなぁ…。)

あたしも、その話を片耳で聞く。

「セールをするんだけど、人手が足りなくてね。2人、ウチの支店からも応援寄越すように言われてるんだ。」

「1人は、加村くんと。」

(!!)

加村さん??

「はいはいっ!あたし行かせて下さいっ!」

自分でもびっくりするような声で、希望の意を伝えた。

「大丈夫?観月ちゃん。戸町は、ウチとやり方がちょっと違うだろうし、セールもやるから、忙しくて大変だと思うよ。」

店長が心配してくれてるけど、そんなのは関係ない!

「大丈夫です。」

そう言ったのは、あたしではなく、加村さんだった。

「彼女のフォローは、僕がします。戸町支店には、前にも一度行ったことがありますし。」

「大丈夫だよ」という目で、加村さんは言った。

「そうかぁ。加村くんなら、もう働いて長いしね!良いだろう。2人に任せよう。」

「あ、ありがとうございますっ。」

店長の同意の言葉に、嬉しくてあたしは、思いっ切り笑顔を加村さんに向けた。