朝、なんだかいい香りがして目が覚める。

(…え…何??)

 寝ぼけた私が起き上がると、昨日の人形だという彼がそばに寄ってきた。

「え〜と…ご主人様?おはようございます。朝食が出来ました。…と言いましても、卵を焼き、野菜を切っただけですが」

「え…?え?」

 起きたばかりで何が起きたのか分からない私は混乱する。

「僕は味見ができませんので…」

 彼は少しすまなそうにそう続ける。

「え、違う違う!なんで、私がご主人様になっちゃうの!?」

「??お名前を存じておりませんので…」

「しかも、昨日と喋り方まで変わってるのはなんで!?」

 昨日は明らかに普通の言葉で会話していたはず。
 私はうろたえるけれど、彼は全く崩さずに私に返す。

「名前がわからなければご主人様とお呼びする他なくて、それに準ずる話し方に…」

 ようするに彼はいま、私を“主人”という扱いで話しているわけだ。
 私は急いで訂正する。

「昨日と同じにして!私はあなたの主人じゃないの!私の名前は『光崎美桜』!“ミオ”って呼んで良いから!」

 彼はその言葉に、とても嬉しそうに笑った。

「ミオ…!うん!卵を焼いて野菜を切ったよ!味付けをして?」

 彼の切り替えは早いらしい。
 私はやっと落ち着けると息をついて、

「わかった」

と言った。