「…イチ…?」

 呼びかけてもイチは微動だにせず、座椅子に体育座りのように丸まったまま。
 初めから動かなかった人形のように固まっていた。

「…もう知らない!本当は人形なんだもん、動かないんだから!!」

 私は気にしないようにして食事の支度を始める。

(平気…私、ずっと一人だったんだもん。動いてた人形が、動かなくなっただけ…。静かな方がいい…)

 私は自分に言い聞かせる。

 相手はこうみえて人形。なら気にすることなどない。
 動く、話すが出来るけど所詮…私は心のどこかでずっとそう思っていた。

 しかし、イチは“傷付く”に決まっている…

 私がベッドに入る頃になっても、イチは動かなかった。

「イチ?私、もう寝るね…?…さっきはごめんね、支度もありがと…」

(起きてくれない…。朝になったら機嫌直してくれるかな…?…人形だもんね、人形は普通動かないもん…)

 動かなくなったイチを気にしながらも、私は眠りに入った。


 ふと目が覚めてイチの指定席を見に行くと…

「…イチ?」

 イチがいない。

 パッと起きて家中を探したけれどいなかった。
 鍵はかかっていたのに…

「イチ…!?イチ!!」

 まだ朝になったばかりのよう。
 周りの家の人達には少し迷惑かもしれないけれど、それでも呼ばずにいられなかった。

「イチ、どこにいったの!?」

 私は急いで着替え、支度をして家を出た。

(私のせいだ…あんなこと言ったから傷ついたんだ…!人形だって、イチは意志を持ってるのに…)