その17
麻衣


総長と補佐が席を外した後、土佐原先輩の進行で会議が再開された

「最初に、優先順位を言おう。墨東、赤隊との戦争は絶対ダメだ。それ最優先で、考えて行ってほしい。で、こういう状況となったからには、みんなも現執行部の責任論は無視できないと思う」

みんな、土佐原さんの言葉を真剣に聞き入ってる

「だがよう…、この1年間必死になって、南玉連合のために奔走してくれた、我々のリーダーじゃないか。その引退間近の功労者二人に、ここでむごい仕打ちが必要か?その辺を汲んでもらって、荒子、どうだ?正直な気持ち、言ってもらっていいぞ」

「…。土佐原御大のお言葉を重々、かみ砕かせていただいた上で、言わせてもらいます。現総長と補佐には、今回露呈した諸問題の責任を取ってもらって、引退前に引責辞任。こうしてもらいたいです」

「荒子!ちょっと、よく考えてよ。あと2週間で引退なのよ。なにも二人にそこまでは酷すぎるわ!」

「あっこ、刃根総長と相川補佐のことは、私も敬愛してるさ。でも…、この時期に戦争の危惧を誘発しかねない状態を作っただけではなく、過度の思い込みで、執行部の一員である鷹美との重要事項共有を怠った。結果、次の外交トップを担う鷹美を辞任にまで追い込んだんだよ」

荒子さんはあくまで冷静に、理論立てて、皆に説いている

「…更に相川補佐は、墨東側の大幹部と通じてた。個人的だとかそんなの、私から言わせりゃ、なんの説得力もないよ。デートの合間でも互いの情報は飛び交うさ。不謹慎極まりないというほかない!今日の混乱など、南玉歴代の幹部会でも、前代未聞の醜態だろ。私もつらいが、お二人には引責してもらうしかない」

荒子さんはきっぱり言い切ったわ

この狂犬、芯はリアリストのようだ

嫌いじゃないな、この狂犬娘…

...

「土佐原先輩、次期総長の荒子がここまで腹括ったんです。二人は引責辞任、それでいきましょう」

木戸先輩が結論を迫った

「ふー、仕方ないところか…。次の責任者、荒子があえて辛い決断をしたんだ。従うしかないな。だが、あくまで、二人は功労者だ。重々、敬意を払って事に当たってもらいたい。いいな、真澄」

「ええ、承知しました」

「よし。なら、互いの組織を売るような行為は決してないと、さっきみんなの前で公言したんだ、相川は。その相川補佐への一昨日の会話の内容、不問でいいんだよな?」

土佐原先輩、すげーわ…

木戸先輩、言葉も発せず頷いてるしね(苦笑)

まあ、木戸ちゃんも、こんなとこなんだろう…


...


「では、今後の方針だ。何が何でも、今回のいざこざでの全面戦争は避ける。絶対に、これが大前提だ。ただ、このまま黙認しても、面子が立たない。さあ、どうするかな…」

腕組みしてる荒子さんが間をおかず、見解を示した

「まず、そもそもの事実確認ですね。北田とかいう1年を明日にでも呼び出して、しっかり聴取する。とにかく、正確なところを把握しないと…。その上でです」

この狂犬さん、言葉に何とも力があるな…

「仮に、今の認識通りであれば、こっちは亜咲さんという、本来なら今の総長になってた人を襲撃されたんです。このけじめはしっかりつけなきゃ、話になりません。まあ、”構える”のは極力、避けるつもりですけど…」

よし、ここでいくぞ!

「あのう…、若輩者が口を挟んで恐縮ですが、私に動かせてくれませんか?」

私は低姿勢でこう切り出した

そして、みんなの視線が私に集中した

「おい、お前!そもそもお前のダチだろうが、タマ撃ったのは!やたらなことすんじゃねえっての!引っ込んでろよ、新入が!」

おお、怖いわ、いずみ先輩は…

「まあ、いずみ、落ち着けよ。赤隊とのいざこざは今に始まったことじゃないだろうが。この1年っ子のダチだって、何もないとこでケンカ売ったわけじゃないだろうよ。それに、この子、バック付きだってもっぱらだし…」

木戸さんには、真樹子さん”経由”の”クスリ”が効いてるみたいだ…

「おう、本郷!お前、その噂、ここではっきりさせてもらおうか、まずは。バックとやら、ホントのところ、どうなんだ?」

これまた、おおコワ…

でも、狂犬さんは、いずみ先輩みたいな金魚のフンと違って、迫力が違うよ…