この馬鹿力……。

腕はついてるだろうか、と確認しているとヤマダさんが自転車を立て直してくれた。

「あんまり嬉しかったもんで、つい」
「つい人を絞め殺しちゃ駄目です」
「締め殺すなんて、大袈裟……ごめんなさい」

じろりと見れば、ヤマダさんが頭を下げた。

「自転車、ありがとうございます。そうだ、お金も返さないと」
「金?」
「篠山さんにファミレス代と、ヤマダさんに昨日の……」
「いや要らないから。その代わり、送らせて」

自転車の向きがまた反対へと変えられる。

冷たかった涙の跡が、ぱりぱりに乾いていた。