「本当はずっと怖かった」

ヤマダさんが呟く。

「声が変わった、可笑しいって言われる夢をよく見た。俺はそれが怖くてここまで逃げてきた」

吐く息が白い。

「……ヤマダさんは、逃げてないと思いますよ」

その背中を静かに二度叩いた。

「あなたは探しに来たんでしょう、ボーカルの人」

小さく息を呑む音が聞こえて、腕の力が強くなった。背骨が軋み、内臓が押しつぶされる。

「いった、痛い!」

思わず自転車のハンドルを離し、ガシャンとそれが横転する。

「あ、ごめん」

その音に気づき、力が緩む。