ぬっと前に立つ人が視界に入ってきて、驚きよろけた。 片手首を取られ、片足だけ後ろに退がる。 「来たなら言ってよ」 冬の空気。ピンと張り詰めた雰囲気に、目を瞬かせる。 「来ないかと思ったじゃん」 「あ、すみません」 「いやいや、時間ぴったり。おはよう、寧子ちゃん」 笑った。花みたいに。 ずるいなあ、その笑い方。 「……おはようございます」 「あ、見て。携帯買った」 じゃーん、と効果音までつけて目の前で振られるスマホ。 はあ、と気が抜ける。 先程の躊躇っていた時間を返して欲しい。