小鳥たちの庭園

 ランニングマシンの速度を少し緩める。マシンにぶら下げた水筒の水を飲み、汗を拭う。
 認めてもらいたくて頑張ったその先、自分のことを認識もできないほど忘れてしまった母が残った。その時の気持ちは千颯にしかわからない。ただ、今それは女の子から向けられる一瞬の視線のよって継ぎ足されて、埋められようとしている。注いではすぐに流れて行ってしまうような、そんな感じ。

「事情はわかった。ありがとう、参考にする」
 ついでにもう一段階速度を落とす。好き好んでジムに来ているわけではないのだ。話が終わったらさっさと帰りたい所存。千颯のことをちょっと考えたいし。
「もう帰るの?」
「話聞けたからね。あんまり長居していいこともないし」

 それに夜には帰ると伝えている。愛しの大雅が心配しないうちに帰らねばならない。
 電源をオフにするとゆっくりと動きを止め始めるランニングマシーンに足を取られないよう、深呼吸する。

「えー、せっかくなんだしもっと一緒にいたいのに」
「はいはい、そりゃどうも」
 軽口を適当に流しながら片付けをし始めれば、ポケットからイヤホンを取り出したのが見え、口角を下げた。

「ちなみになんだけど、それ、また私じゃないよね?」
「あはは、茉子以外ある?」
 間髪入れない返答に瞼がピクリピくり痙攣する。その視線に気づいてか、相変わらず視線だけは前を向けてにっこり笑った。

「大丈夫だって、誰にもバレてないし」
「バレたら死ぬのお前なんだよ。大体なんでよその高校の文化祭のバンドの音源もってのか疑問なんだわ」