小鳥たちの庭園

 女は玄関から顔を覗かせると、Tシャツにパンツ一枚というだらしない格好で手を振った。先程までの愚行が思い出されるようで、千颯はなんとなく女から視線を逸らしながら控えめに手を振った。

「はいはい、おやすみ」
 千颯はさっさと扉に背を向けて、アパートを出る。また、なんてないという言葉は最後まで飲み込んだ。おそらく相手だって本気で「また」があるなんて思っていない。単なる様式美である。

 急ぎ足で駅に向かいながらスマホをポケットから取り出した。スマホの画面を開けば、時刻は朝方4時を指している。全くもっておやすみの時間でない上に、こんな時間に街に放たれるなんてごめん被りたい時間であるが仕方ない。明日、千颯にとってはもはや今日となってしまったが、授業がある。

 毎度馬鹿なことをしている自覚はあるけれど、やめられないのだから仕方がない。なんとなくあの家に女の匂いをつけて帰るのは憚られ、ネットカフェでシャワーを浴びるのが日課になっていた。

 蛇口を捻る。コインシャワーに相応しく水力の調整がうまくいかないシャワーは、勢いよく千颯の頭にお湯をかけ続ける。
 唇を噛み締め、そうして長く息を吐き出した。自分が招いたことだと言うのに、このお湯とともに全てを洗い流してくれないかとこの時間にいつも思う。
 馬鹿であることは知っていた。この行為になんの意味もないことも、その場限りの誤魔化しにしかならないことも最初から知っている。