いくら両親が娘のためを思って、用意した下宿先でも梨帆はできることなら不満を言いたかった。長期の海外出張の間、娘を一人置いていくのは心配だからと言っても、5人も知らない男子学生がいるところにぶち込む方が心配じゃないのか。そう言ってやりたかったが、これも言えるわけがない。

 梨帆はもう一度、インターフォンのボタンに指を近づけて、やっぱり退けた。

 無理だ、無理だよ無理無理!! だって男の子5人もいるんだもん! 女の子は一人だけだし。その女の子だって男の子5人と暮らしてるんだから普通じゃないに決まってる! 絶対きゃぴきゃぴのイケイケのギャルなんだ!  

 梨帆、爆発。

 ただでさえ人見知りだというのにあまりにも無理ゲーすぎるのだ。ヤンキーみたいなのがいっぱいいることだってあり得るのだ。なんで! そんなところに! 娘を預けようと思ったのママ! パパ!

 考えても仕方がないことばかりが頭の中でぐるぐる回り始める。キャリーバックを引きずってここまでやってきて、さらに先ほど両親と弟をお見送りした娘としては、ここを尋ねる以外の道は残されていない。あるのは宿無し野宿ルートくらいしかないのだ。だから、このボタンをなんとしてでも押さなければならない。そんなことは分かっているのだ。

 再び大きく息を吐き出した。ついでにパンっと頬も叩いてみる。

「はぁ、よし。行こう、行きます。うん」 
 一人でにそんなことを呟いて、最後にもう一度大きく深呼吸をした。

 大丈夫、私なら頑張れる。