小鳥たちの庭園

 百合は少々納得のいかない様子だったけれど特にこれと言って興味はないらしく次の瞬間には梨帆に笑いかけていた。

「彩みてよ。百合の笑顔とかレア。私にもくださいその笑み」 

「貰いたかったらもうちょっといい子になろうね、それでもうそろそろ帰ろうね」

 うんうん、と柔らかい笑顔を浮かべながらどことなく辛辣な彩が腕時計に視線を落とした。気づけば、お昼の授業まで残り10分といったところ。

 食堂から教室まではそんなには時間はかからないけれど、梨帆は初日だし余裕をもって行動したほうがいいだろう。

「そうね、じゃあ行くわよ」

 まるで女ボスみたいなセリフだなと思ったけれど命が惜しいためあえて言葉にしない。いい子になるって決めたので。



「でね、駅前のラーメン屋がほんっと美味しくて」

 教室に向かいながら彩のラーメンオタクトークを聞いていると

「うわぁ……」

 ほんの数メートル先から聞きなれた声が聞こえた。無意識に口角があがる。

「たいちゃーん!!! こんなとこで会うなんてラッキーだね! 今日も今日とて愛してるよー!!」

 先頭を歩いていた百合の隣をすり抜け、大雅に駆け寄ると「来るんじゃねぇよ」という声が聞こえる。

 無視だよ、無視。都合の悪いことは聞こえない。

「茉子ちゃん、今日も懲りないねー」

 大雅と一緒にいる水谷が苦笑する。もうこのやり取りも恒例化している。

「そりゃあね、押してダメなら引いてみろのまだ押す段階だからね」
「それにしてはやけに長いよね」
「愛語り切れてないからね」