しかし、ある夜チャンスが巡ってきた。連日仕事で遅くなり、なかなか彼と一緒に晩酌もできずにいたときだ。夜は顔すら合わせることがなかった日が続いていて、連日彼とゆっくり過ごすことができないフラストレーションがたまっていた。

その夜は彼が既に寝てしまったあとだった。お風呂上がりで彼の部屋の前をウロウロしてみたり、彼の部屋のドアに耳を当てて彼の様子を窺ってみたりしていた。


 無性に寂しい。


 夜這い、してみようか…いや、そんなことして拒否されたら…でも彼に会いたい…朝になれば彼に会えるけど、でも…とひとりで葛藤していた。一体自分がどのくらいの時間右往左往していたのか分からない。

私は諦めがつかず、向かい側の自分の部屋のドアにもたれ、膝を抱えてしゃがみ込んだ。すると突然、彼の部屋のドアが開いた。

「うわぁ!何やってんだ?こんなところで」

 彼は心底驚いた声で叫んだ。

「真崎さん…」

 顔を上げると、心配そうに眉尻を下げて私を見つめる彼がいた。

「眠れないのか?俺の部屋、来る?」

 ま、まさかの!彼のからの誘いを断るわけにはいかない。私は喜びを隠して、平然とした顔(のつもり)で黙って頷いた。

「俺、トイレ。ベッドん中入ってていいよ」

「はい」

 部屋の中に入ると、ベッドサイドのテーブルランプが仄かに部屋を照らしていた。私はいそいそと彼のベッドの中に潜り込むと、彼の匂いに包まれてそれだけで気持ちが高揚した。彼が入るスペースを空けるために左端に寄ると、やはり一人用のベッドは狭く落っこちそうになった。

 ガチャリとドアが開く音がして彼が戻ってきた。ああ遂に、彼と一夜を共にする時がきたのだ。

「電気消すよ」

「はい」

 彼は自然な動作で私に左腕を差し出した。私はその腕に自分の頭を預けてみる。

「あんまり端に寄ると落ちるぞ。こっち寄れ」

 その腕がぐいっと私の身体を引き寄せる。