俺様男子はお気に入りを離さない


講堂のイベントにも顔を出そうと向かっていると、シフト表を持った御堂くんとばったり出くわしてドキリとする。

「お前ら何やってるんだ?」

眉根を寄せて、明らかに不機嫌な声で私と沢田くんを見やる御堂くん。
私が口を開く前に、沢田くんが一歩前に出る。
そのことが気に食わなかったのか、ますます怪訝な表情になった。

「秋山さんとは休憩が一緒だったから、ちょっと見て回ってるだけだよ」

「俺も行く」

「御堂は生徒会だろ? ちゃんと仕事しろよ。秋山さんは俺と回ってるんだから」

「なんだと?」

沢田くんはわざと挑発しているのだろうか。
御堂くんの声が荒くなる。
一触即発な雰囲気にドキドキと鼓動が速くなり、背中に冷たい汗が流れた。

「秋山さんは御堂のものじゃないよ」

「なっ!」

「もちろん、俺のものでもないけどね。でも、ちゃんとしないと誰かに取られても知らないよ。だって秋山さん、めちゃくちゃ可愛くて人気あるし。さ、行こうか、秋山さん」

「えっ、あっ……」

沢田くんは私の背を軽く押す。
私は何も言えないまま、その勢いで足が出て御堂くんの隣を通り過ぎる。

と――。

「千花子、学祭終わったらいつもの美術室(とこ)に来い」

そんな声が耳に届いてハッと振り返る。
御堂くんはこちらを振り向くことなく足早に去っていった。

「どうかした?」

「……ううん」

どうやら沢田くんには聞こえていないようだ。

御堂くんの後姿があまりにも遠く感じて気が滅入りそうになった。
それに、美術室に来いって……?
心臓がバクンバクンと騒ぎ出す。

「ごめん、挑発しすぎた? でも御堂がグズグズしてるからなんかムカついちゃってさ」

「グズグズ?」

「そう、グズグズだよ。男らしくないよね」

私は首を傾げる。
グズグズしているのは私の方だと思うんだけど。
御堂くんはいつだってハキハキしてて、意志が強い。
沢田くんにはそう見えないのかな?
何だか不思議。

「秋山さんはもっと御堂にアピールしていいと思うよ」

「アピール……? 何を……?」

うーんと真剣に悩んでいると、沢田くんはぷはっと吹き出す。「二人とも不器用だよね」と何故か笑われてしまった。