俺様男子はお気に入りを離さない


私は小さく深呼吸をする。
ちゃんと言わなくちゃ。

沢田くんは優しくて気遣いができて、非の打ち所のないような人。
きっと、沢田くんを好きになったら幸せなんだと思う。
グズグズしている私なんかを好きになってくれて本当に嬉しい。

だけど私は――。

どうしても御堂くんのことが頭から離れない。
御堂くんからは離れなきゃって思ってるのに。
何でなんだろう。

すうっと息を吸い込む。
私は沢田くんを見た。
沢田くんも私を見る。
交わる視線がぎこちない。

「……沢田くんに好きになってもらえて嬉しかった。私も沢田くんのことは好きだけど、それは友達としてだと思う。だから、お付き合いはできません。ごめんなさい」

ズキリと胸が痛んで声が震えそうになった。
こんな恵まれたことはないというのに、断るだなんてどうかしてる。

それなのに、沢田くんは爽やかに微笑む。

「そっか、わかった。ありがとう」

ありがとうだなんて、こっちのセリフなのに。
沢田くんは本当に優しい。

「秋山はさ、御堂とお似合いだと思うよ」

「えっ?」

「御堂はいつも誰かに追いかけられてて、まわりからも期待されて、秋山に癒やしを求めてるんだと思う。秋山って奥ゆかしいっていうか、縁の下の力持ち的存在じゃん。今回の大道具係だってそうだろ。そういうのってすっごく安心できると思うんだ」

沢田くんの言葉に私は目を見開く。
自分のことをそんな風に評価してくれてるなんて思ってもみなかった。
自分はいつもイジイジしてて、菜穂みたいに堂々とできなくて、そんな自分が好きじゃなくて、変わりたいと思ってて。

だけどそれでもいいんだって、今の私でいいんだって思わせてくれる言葉。

「あ、あの……。沢田くん、私のこと好きになってくれてありがとう」

精一杯の気持ちを込めて。
ちゃんと、沢田くんの目を見て。
その気持ちだけは伝えたいと思って。

お礼を言えば、沢田くんは「あー」と頭を掻く。

「なんていうか、やっぱり悔しいな。でも秋山のこと好きになってよかった。今日だけは一緒に見て回ってもいいかな? もちろん友達として」

「うん、一緒に楽しもっか」

私たちは顔を見合わせてふふっと笑う。
ちょっと照れくさいような、でもお互い吹っ切れたような、そんな気持ちに胸がぎゅっとなった。