俺様男子はお気に入りを離さない

翌朝、考えすぎて冴えない顔のまま登校した私は教室で御堂くんの顔を見ないように過ごした。

せっかく同じクラスで嬉しいはずなのに、今は御堂くんを見ると胸が苦しくなって泣きそうになる。

御堂くんは相変わらずクラスの皆に囲まれているようで、女子たちのキャピキャピした声が耳に届くけれど、何も聞こえないふりをした。

「千花子、おーい、千花子?」

「えっ? あっ、なに?」

「なにボーッとしてんの?」

「どうせ御堂くんに見惚れてたんでしょ」

「んなっ! そんなわけないじゃない」

「そう? 千花子だって本当はあの輪の中に加わりたいくせに」

菜穂はちらりと目配せする。
見ないようにしている御堂くんとその取り巻きが目に入って、慌てて目をそらした。

「……さすがにあの輪の中には入りたくないかな」

「ふふっ。同感。うっとおしいよね」

「ちょっと菜穂ったらはっきり言いすぎ。聞こえたらどうするのよ」

私は苦笑いだけど菜穂は悪びれることもなくあっけらかんとしている。
そういうところ、菜穂は強いんだよね。自分の意見をはっきり言うし周りに流されないし忖度しない。
私みたいにイジイジしていないところ、うやらましくなっちゃうよ。

「はあ。私も菜穂みたいに強くてかっこいい女の子になりたい」

ぽそりと呟けば、菜穂は心底呆れた顔をする。

「なに言ってんの。可愛くておしとやかなところが千花子の魅力でしょ。私にはないよ、そういうの。御堂くんもそういうところに惹かれてると思うけど」

私は目をぱちくりさせた。

「……惹かれてる? 誰が?」

今度は菜穂が目をぱちくりさせる。

「やだ、自覚なしなの? 罪な子!」

「え、だって私別に御堂くんに何も言われてな――」

教室の片隅で菜穂とわたわた会話をしていると、突然「秋山さん」と鋭い声に呼ばれた。
振り向けば、教室の後ろに立てかけてある学園祭で使うおばけ屋敷の大道具の前に数人の女子が群がっている。