藍住くんのことを知りたい。
そう思うのはおかしいだろうか。
あの夢を見た日。私が遠足を休んだ日。
その日から彼のいかにも人を寄せつけないような態度は偽物……いわゆる仮の姿なんじゃないかと思い始めた。
もちろん男の人は怖い。嫌いだ。
でもそう思っていたらこの学校だけじゃなくて、この社会でもやっていけないことに気付いた。
逃げるんじゃなくて変わろうと思ったんだ。
「……おはようございます。藍住くん」
よし、と気合を入れて、一発目。
今日から5月。
心機一転頑張るのにはちょうどいい節目になった。
「!?……あぁ、おはよう」
少し驚いた顔を向けられる。
無理もない。4月中、私から藍住くんに話しかけたのはハートの風船のときと、その他事務連絡くらいだ。
相変わらず素っ気ない。
優しい口調で話してくれるのは、私に何かあったときだけだ。
もしかしたら無駄な会話が嫌いなのかもしれない。
もしかしたらシャイなだけかもしれない。
もしかしたら女性が苦手なのかもしれない。
それなら一緒だな、気持ちわかるな。
頭の中を巡るたくさんの"もしかしたら"が、一歩踏み出す勇気をくれた。