「……ろ!おい比菜!起きろ!」
思いっきり身体を揺さぶられて現実に引き戻される。
光と共に私の目に映るのは、柄にもなく焦った顔の藍住くんだった。
「藍住くん……?なんで……」
「どこが痛い?薬飲んだか?」
話の内容が理解できない。
仮病だし、その理由は発熱だ。
「どこも痛くない……です」
「え?でも今痛い痛いって……」
あぁ、私うなされてたんだ。
あの頃の夢を見るのはしょっちゅうだ。
でもうなされているみたいなことを言われたのは今までの人生で一度もなかった。
いつも一人の部屋で、起こされる前に本気で死を意識したときに飛び起きるから、誰にも何も気付かれていなかっただけなのかもしれない。
「夢を見ていて。ちょっと痛い感じだったので……。すみません」
「そうか。それならいいんだけど」
安心したのが、声色でわかる。
本気で心配してくれてたんだ。
「もしかして藍住くんの部屋まで聞こえてましたか?」
「うん、まぁ……。痛いって言いながら唸ってるから何事かと思って……」
「ごめんなさい、心配かけて」
藍住くんはそれを聞くと、私に水の入ったペットボトルを手渡して、じゃあと出ていった。
見かけによらず心配性なのかな、あの人。
初めて人に貰ったペットボトルを見ながら、思わず微笑んだ。