……居ずらい。
自分の部屋のはずなのにこんなに緊張するのは、藍住くんが電話先に怒鳴っている声が壁越しに聞こえてきたから。
誰も入ってこない部屋で息を殺して過ごす。
これじゃあ、家にいた頃と同じだ。
勇気をだして新しい一歩を踏み出したのに、楽しいどころか苦しい。
隣に藍住くんがいることに対する怯えは、あの頃のお父さんに対する怯えと同じようなものに思える。
そんな私の落ち着くためのものはたったひとつだけ。
肌身離さず持っている、顔すら見た事のない母が私に買っておいてくれた絵本だ。
スクールバックから絵本を取り出して、少し色褪せた表紙をめくる。
『大好きな王子様』
作者名と共に書かれたタイトルは、優しいタッチの温かみのある文字で私を安心させてくれる。
布団に寝転がりながら1文字1文字を噛み締めるように読んでいくと、そのまま眠りについていた。