深呼吸をして扉を開けると、細身の中年男性が立ち上がった。
「比菜、比菜なのか……!」
その声は震えて、目は潤んでいた。
「お父さん……」
この距離感。すぐ後ろはドア。
大丈夫、きっと何もしてこない。
自分で決めたことだから、握りしめる手にさらに力を込める。
大丈夫、怖くない。怖くないよ。
「迎えに来たんだ。比菜、お父さんと一緒に死のう」
お父さんの発言に驚いて固まってしまう。
今、なんて?
聞き間違いだよね。死のう、なんて。
「お父、さん……?」
「な、そうしよう。一生に美和子に会いに行こう。な?」
一歩、一歩と確実に距離は縮る。
「やだ、やだっ」
助けて、咲夜くん、先生、助けてっ……。
近づくと共に振り上げられていく拳を作った腕。
もうダメだ、と思ったときにもたれていた扉が後ろに下がった。
「比菜、大丈夫か!?」
「ごめんなさい、私が判断を間違えました」
私だけを連れ出して、ほかの先生たちで扉を抑えてくれている。
「怖かった……。お父さん、変わってるかもって思った私がバカでした……」
そう言うと、学園長は優しく抱きしめて、何度もごめんなさいと謝った。