私の光になった人

1日ひとつ、お互いに質問し合おう。
その提案に賛成した。
これからもこの学校で生活していくために。
初日は趣味。
私は読書。藍住くんはゲームだった。
2日目、好きな食べ物。
私も藍住くんもお寿司だった。
次の休みに回転寿司へ行く約束をした。
好きなお寿司のネタで盛り上がった。
私も藍住くんも、年に一度口にするかしないかの特別な食べ物だった。
3日目。誕生日。
私は10月12日。藍住くんは12月6日。
4日目。回転寿司に来た。
質問は、好きな季節。
私が春なのに対して、藍住くんは秋だった。
栗ご飯が好きらしい。
それを重ねていって、30日目。
自然と敬語が取れて、お互い名前呼びになって。それなりに距離は縮まった頃。
家族について聞いた。
家族愛が知りたかった私からの質問だ。
「……母さんと父さん、出来のいい兄さん」
ばつが悪そうな顔をして、答えてくれた。
反応に困っていると、そっちは?と聞かれた。
自分も答えないといけないことを忘れていた。
「えっと……。お父さんがいる」
言いずらそうにしているのが分かったのか、咲夜くんはゆっくり頷いて、机の上のお茶を1口飲んだ。
「……男が怖いのか?」
ゆっくり頷いた。
でも、これはルール違反だ。
1日1個。
それは咲夜くんに好きな食べ物を聞いたときに指摘された。
好きなネタ。
答えてくれたけど、開口一番に言ったこと。
「比菜、ルール違反」
そう、ペシッと手の甲を優しく叩かれた。
「なんで?」
まっすぐ私を見る目はどこか寂しそうだった。
そんな彼に、ルール違反だなんて言えなかった。
「……お父さん、ずっと私のこと……」
思い出すだけで手が震える。
あの時の怒声が、いくつも重なって脳内で再生される。
「ごめん、嫌なこと聞いた」
申し訳なさそうに私の隣に座って背中を摩ってくれる。
「……大丈夫、大丈夫……」
自分に言い聞かせるように、咲夜くんに責任を感じさせないために。
何度も大丈夫と呟いた。