私の光になった人

2割引だからと買ったお肉が、中ではなく大だった。
完全にやらかした。
それはボウルの中にできた肉だねが教えてくれる。明らかにひとつにまとまらない量だ。
お店で出てくるような1人前の塊をフライパンに乗せていくと、4つになる。
今日、明日、明後日、明明後日。
毎日ハンバーグプレートだ。
焼け目が着いたらひっくり返す。
蓋をして蒸し焼き。
これを覚えたのは、親からではなく、中学の家庭科の授業でだった。
いちばん楽しいと思えたのが、調理実習。
初めてやったときはこんなに楽しいことが世の中にはあるのかと感動した。
でも今、1人でハンバーグを焼いている。
1人でもできるんだ、私。
成長したな、私。
食器棚にある大きめのお皿を2枚とって、1枚にご飯を盛った。
洗い物をしてフライパンの蓋を開けると、もくもくと湯気がたちこめて、その中に美味しそうなハンバーグが顔を出す。
「なに、ハンバーグ?」
……え?
声が聞こえた方を見ると、外出から帰ってきた藍住くんの姿があった。
「うわっ!……おかえりなさい」
「時差すご」
そう笑うと、荷物を置いて洗面所の方へ引っ込んでいった。
藍住くん、笑うんだ。
入学して同棲生活を初めて1ヶ月以上経つのに、笑顔は初めて見た。
「藍住くん、食べますか?」
戻ってきた藍住くんに勇気をだして聞いてみた。
心臓がうるさい。
「いや、いらないですよね。ごめんなさい変なこと言って」
返事がないことが怖くて、尻込みしてしまった。
「食べる。食べたい」
椅子に座った藍住くんは、どこか嬉しそうに答えてくれた。
それが私も少しづつ前に進めているような気がして嬉しかった。