その34
ケイコ


私が南玉に加入し、北田久美を除くレッドドッグス全員と本郷麻衣が、ファーストレジェンドを経た新生南玉連合に復帰を果たしてわずか1年…

都県境は再び大激震に襲われることになった

だけど…、その震源を成したのは、トップという重責を投げ出し、南玉を脱退した私と、それに続いた麻衣ってことなのかもしれない

今思うと、去年夏の再編後、都県境の核は文句なく南玉が担ったよ

それは墨東会とかの男組織を含めてのフレームってことで

...

そして…、今回、我々サイドのオポジションであった仇敵の排赤勢力を率いた砂垣さんがバグジーという刺客を擁して最終決戦を挑んできたわけで…

対する反排赤側の面々は各々の抱える恩讐を乗り越え、一致団結…、麻衣と私が抜けた南玉の新たなリーダーに就いた津波祥子がバグジーを迎え撃ち、長年にわたる排赤一派との雌雄を決したんだ

祥子とバグジーの壮絶な一騎打ちは、結局引き分けの勝負つかずってことになったんだけど…

結果的には、宿縁のオポジションだった砂垣さん側の勢力とも協力関係を築くことができたんだ

なので…、南玉が吸引力となった大きなカタマリは、もはや猛る女たちとかの範疇を超え、都県境全体の安寧保持を一手に担う、”然るべき勢力”へのけん制集団に変異した

然るべき勢力…

そうだよ、ここで相馬豹一の影なんだよ

麻衣と私は、”連中”からしたら遠縁の娘としてヤクザと素人の狭間に食い込む野心への弓矢だったんだから…

その都県境の背骨たる地位にスライドした南玉連合を、この夏、麻衣と私がとんずらした

その後は各校側と走りの二グループを本田多美代と津波祥子が支えることとなった

この二人が背負ったとてつもなく重い責任…

私は断言する!

多美と祥子は、私と麻衣が結果として押し付けた都県境の命運をドンと引き受けてくれたってね

そして…、その意味するところは、砂垣さんの背後から分離した巨大な闇を擁するこの国の反社勢力との正面対峙ということになった…

...

夕方5時ちょっと前…

祥子がアパートにお迎えだ

玄関戸を開けると、ヘルメット片手の祥子が立っていた

「ああ、祥子、悪いね。ええと…、どうする?私の方はすぐ出られるけど…」

「うん、そうだな…。おけい、今、アキラさんいるのか?」

アキラは今日バイトはなく、昼から私用で出かけていたが、すでに戻っていた

「彼、今は部屋にいるよ。会っていく?」

「いいか?」

私は、どうぞどうぞって感じで笑みを浮かべながら、祥子を部屋の中に招いてね…


...


「おじゃまします…」

「アキラ…、祥子だよ」

「ああ、津波さん…。話は聞いてますよ。体の方は大丈夫?」

「はは…、体中、湿布と絆創膏ですが、まあ元気はモリモリです。ご心配、ありがとうございます、アキラさん」

アキラはクスクスって、こぼれ笑いしてる(笑)


...


「今、お茶入れるわ。足崩してよ、無理しないでさ」

「あー、おけい、お構いなくだよ。二人には一言だけさ…。だから、お前もアキラさんの隣に頼む」

私とアキラは思わず目を突き合わせちゃってさ…

とりあえず、アキラの隣に座ったわ

...

「…アキラさん、今回おけいには全面的に動いてもらって、おかげさまで、今日、相手方との話し合いで区切りがつきます。長いこと彼女をお借りしてて…。メンバーを代表してお礼させてもらいます。本当に、ありがとうございました!」

バグジーとの壮絶な死闘からまだ二日…、祥子は体中痛いはずなのに、正座して私たちにお辞儀してくれてる

「祥子…、もういいよ、そういうのは…。ねえ、アキラ?」

「そうそう…、津波さん、頭上げてよ。こちらこそ、ケイコのこと、とても気遣ってもらったそうで…。津波さんには感謝しているんです。それと、昨日は素敵な贈り物もいただいて、ホントにありがとう」

アキラは夕べ、ベッツでの集まりでみんなが旅行券を私たちにプレゼントしてくれたお礼をね…

「いえ…、それこそみんなの気持ちです。ウチらが二人の時間をいただいたんですから…。その時間を取り戻してもらいたんです、二人で…。温泉でもスキーでも、目いっぱい、おけいと楽しんできてくださいよ」

ここで3人は声を出して笑ってね…


...



「まあ、お茶の一杯くらいはさ…。祥子はこれからいっぱいしゃべるんだから、喉乾くしね」

私は立ち上がって台所に向かった

お茶を入れてる間、後ろの部屋で世間話をしてる二人の声が届いていたんだけど…

「…あっ、そのチラシ…」

「ああ、これね…。今見てたんだけど…。ここ、来週オープンだっていうんで、彼女と行こうと思ってるんですよ」

「そうっすか…」

何か…、祥子、声のトーンが変わったかな





「…はい、お待たせ」

「おお、悪いな、おけい…」

祥子…、チラシの求人時給800円に蛍光ペンで丸してるの、気づいてるな…

「アハハハ…、しかし、時給800円だって、そこ。私たち二人ともバイト探しクセになってたんでさ…。すぐ目が行っちゃうんだわ」

「そうか…。でも、この店には気を付けた方がいいよ。できればオープンも行かない方が…」

再び私はアキラと目を合わせて、今度はお互い、目をパチクリしあっていた…