その1
麻衣



その8ミリ映像の”映写会”は、およそ45分あまりだった

「じゃあ、終わりなんで、かたしますよ。真樹子さん、いいっすか?」

「ああ」

真樹子さんは、浅土道也の顔も見ずに、生返事してる

「豹子さん、どうっすか?使えそうなのいたかな?」

折り畳みのイスにかけたままの私を、斜め後ろから首を伸ばし、顔を覗き込むように真樹子さんが尋ねてきた

「そうね…。二人ね、とりあえず」

「えーと…」

そう、私の手にしたバインダーを覗き込んでる彼女に、私は言った

「これとこれ…、この二人よ。たぶん使えるでしょ、即で」

「ええと…、双葉女子高の津波祥子。それに…、台方工業高の迫田リエ…か。で、どうします?」

「呼んで。例の廃倉庫にね。うん、早い方がいいわ。やる気あんなら来いって。明日でもいいわ。時間は夜中だろうが、早朝だろうがOKよ。ただし、二人の時間はずらして、個別でセットしてくださいね」

「わかったわ。早速、接触するよ。じゃあ、行っていいかな」

「ええ。あ、今日の分渡しとくわ。ただし、そこから、あの撮影係りの分も出しといて。配分は任せるわ。ゼロじゃなきゃ、あなたの気持ちに従って。それにブツブツってんなら、私が首を縦に振らせるまでだし」

私がそう言うと、真樹子さん、例のにケバイ顔をニヤッとさせて”報酬”を受取った


***


「ええ。はは…、じゃあ。貰っときます」

「それから真樹子さん、次回からは、”女の場”はあなただから。大場ちゃんは外れるわ。今の8ミリでは大場ちゃんが主催者代表だったけど、もう彼は女性陣の会議等には顔出さないわ。で、あなたよ、全権は。無論、私の代理人って立場ではあるわ、いい?」

「ああ、了解だよ。頑張るよ、私さあ、へへ…」

「うん、あなたは頼れる人だわ、ホント。じゃあ、後ろの彼、うっとおしいから、さっさと連れってって。あなたにナマ聞くようだったら、連絡ちょうだい。真夜中でも行くから。遠慮はいらないわ」

「ああ、ありがとう。何かあったら、すぐ連絡するよ。じゃあ、さっそく行動に入るから。失礼するね」

「お疲れさま、先輩。連絡待ってますよ」

この人、割と気に入ってるんだよな、私…


***


真樹子さんは浅土道也を連れ、この相和会所有の空きビルの一室を後にした

8ミリは予想以上に楽しめたわ

その8ミリには、砂ちゃんになびいてきる連中のうち、女性陣営を含めて集めた”会議”の模様が収録されていた

目的は、私が裏からコトを進める上での、”即戦力”の選別だ

さして期待はしていなかったんだが、2人、目についた

あとは、おおむね、クソの足しにさえならない手合いだろう

とはいえ、数で対応って”場面”じゃ、捨て石くらいにはなるか…

とにかくこの二人だ

フフフ…、早速”面談”だな…

”プロフィール”を見ると、二人とも、「はい、分かりました」ってタイプじゃない(笑)

面白いわ…

相馬さんの”エキス”をたっぷり吸ったばかりの私にとっちゃ、いいエネルギー解放の場になりそうだし…

真樹子さん…、では、早く連絡ちょうだいね


***


そして、面接の日はきた…

なんか、梅雨入りが近いって感じで、今日は本降りだ、雨…

この廃倉庫は屋根もよれよれだし、雨音がこれでもかって効果音を響かせている

さて、今日は…

はは、ダブルヘッダーだよね

真樹子さん、段取り、良すぎでしょ

で…、本日最初の”面接”は迫田リエか…

先日のビデオの様子とこの人のデータを見る限り、まあ実利主義者ね

要は時代の最先端を行ってる、金が最優先の割切り型だ

フン、こっちとしてはやりやすい

別にこっちは、出す物を惜しむつもりは全くないし、成果を高く求めて、それに応えてくれりゃいいんだ

そのかわり、ハッタリとか手抜きは一切許さない

絶対にだ

その辺は地獄の閻魔様並みだぜ、この私は、ハハハ…

まあ、一番手のこの人は眼鏡にかなえば、あとは条件面の摺り寄せに行着くだろう

「豹子さん、バイクの音するから、アレ…、そうみたいだ。あ…、来ましたよ」


***


程なくして…、うす暗い廃倉庫の扉が開いた

雨模様の為、いつものありがたい日差しは入ってこない

「こんにちわ。…ああ、岩本さん、先日はお世話になりました。ちょっと早かったっすよね」

「いえ、こっちも早かったからちょうどいいわ。どうぞ…。暗いから足元、気を付けてね。ああ、こちらが今日の、まあ、面接官よ」

真樹子さん、まるで私の秘書気取りだわ(笑)

はは…、そんなケバイ秘書いないって…