その7
祥子
麻衣はゆっくりした語り口だった
「…春先からの私たちが先導したアジテーションによって、この都県境に大激震を起こした訳だけど、その結果イコール再編成ってことだよね。しかも必然性を伴った…。要はここで大きな枠組みは方向性を見たってことでしょ」
ああ、麻衣のその見解に異論はない
「…ということで、覇権を争う局面は終わったんだから、今までみたいに、あえて”カタマリ”を作る必要はない。だからね、この後各々のスタンスに従って個々が各々、猛ればいいのよ。私はこういう気質だから、横田競子と刺激し合い、ぶつかっていく…」
なんか…、いつになく改まった話しっぷりがちょっと気になった…
「…みんなもさ、それぞれ猛る思いの丈で突っ走っていくでしょうから、いずれ、その先に何がしかが目の前を立ち塞ぐこともあるだろうね。決して逃げずにぶつかっていった人間たちが、どこかでまた同舟に辿り着くと思うよ」
それって、再びこのメンツが共通の敵の前で巡り合うっていうことか…?
...
麻衣は続けた…
「…従って、当面は南玉も反南玉もお手々繋いで仲良くは所詮無理だし、その必要もないけど、敵味方って関係に捉えるのはナンセンスだと思うんだ。…祥子、そういうことなんで、仮にアンタとドッグスが南玉に復帰して私はキャビネットのフレーム内に入ったとしても、私はオポジションを意識することなんかないわ。私は自分のスタンスで、どこにいようがカモシカとは向き合っていくつもりさ」
「ああ、わかった。みんな個々で猛っていけばいいんだな。そんで、いつかまた、例えば何か共通の巨大な障害を前に居合わせることになれば、再び手を携えると…。知恵と力を合わせて」
私がそう言ったら真樹子さんが目を細めて続いた
「でも、そう言う時がまた来るのかしら…」
そして麻衣が答えた
「あると思う。そんなに遠くない時期に…」
今度は三田村さんが麻衣に尋ねた
「それ…、例のカンかい?」
「はい…。それと、相馬会長もそんな予測を抱いて、私の後ろ盾をしてくれてる気がするんです」
「…」
3人は無言で麻衣を見つめていた
…
しばらくして、私は麻衣に問いかけた
「麻衣…、相馬さんはその場合、横田競子も”そこ”に絡らんでくるこを織り込んでるんだな?」
「うん、そうだと思う。なんとなくだけど…」
再び真樹子さんが、大きくため息つきながら言った
「ふう‥、もしそんな時が来たとしたら、私たちの前に立ちふさがる”敵”ってどんな連中なんだろうか…。私には想像もつかないわ」
これを受けて、煙草を咥えた三田村さんが訊ねた
「麻衣には、”そいつ”がおぼろげにでも見えるのね…?」
「うーん、そこまでは見えません、正直。でも…、恐ろしく危険な相手には違いないですよ。なんたって、私たち猛る女達が突っ走って、気が付くとみんなが並んで立ち向かってる”敵”なんですから。きっと、ハンパない相手です、それは…」
麻衣は包帯が痛々しい小指を押さえながら、遠い目で呟くようだったわ
...
「うん、まあ、こういった話はまたいずれさ。今日はこのくらいにして、麻衣さんは帰って安静にした方がいいわ」
真樹子さんが切り出した
その通りだ
今日はここまででいい
...
麻衣は笑みを浮かべて頷き、窓口で薬を受け取ったあと、本日の送迎を買って出たアンコウさんと一緒に病院を出ていったわ
イスから立ち上がって二人を見送った後、真樹子さんと私は再度長椅子に腰を下ろした
「…なんだか今日の麻衣さん、相当感慨深げだったわね。まあ、自ら進んで骨折されてきて、ケリつけたんですものね。無理もないけど…」
真樹子さんはしんみりと独り言みたいに漏らしていた
「ホッとしたってのも、あったんじゃないっすかね」
私は相槌を打つかの様な返答しかできなかったよ
そしたら…
...
「以前、麻衣さんはこんなこと言ってたわ。一つ大きなことをやり遂げると、普通の人は充実感に浸れるけど、自分は喪失感に襲われる。それが恐いって…。彼女、子供の時からだったそうよ、そういう感性っていうか、あの人が言うところの心の主の声だとか…。きっと、今もそんな心境に至ってるのかも」
「…」
「それで、次に見据えられるものに自然と気持ちが行っちゃうのね。指の骨が折れて痛くてしょうがないっていうのにさ…」
「真樹子さん、麻衣の次っての、横田競子ということでしっかり定まってるんじゃないの?」
「ええ、彼女にとっては、あのカモシカってことには違いないんでしょうけど…。麻衣さんにはその先が見えるのよ、おそらく」
「どんな?」
「さっき語ってたことかな…」
「えっ?いつか我々みんなの前に立ちはだかる、大きな影ってヤツですか…?」
「よくわかんないけど…。麻衣さんはこの後、横田と競い合って、私達もそれぞれの道を歩む…。その後でさ、みんなが迎える光景ってとこなのかな…」
この時、私には今一つ理解できなかった
いずれにしても麻衣は、これから進む道が更なる危険なロードだということは確信してるんだろう…
祥子
麻衣はゆっくりした語り口だった
「…春先からの私たちが先導したアジテーションによって、この都県境に大激震を起こした訳だけど、その結果イコール再編成ってことだよね。しかも必然性を伴った…。要はここで大きな枠組みは方向性を見たってことでしょ」
ああ、麻衣のその見解に異論はない
「…ということで、覇権を争う局面は終わったんだから、今までみたいに、あえて”カタマリ”を作る必要はない。だからね、この後各々のスタンスに従って個々が各々、猛ればいいのよ。私はこういう気質だから、横田競子と刺激し合い、ぶつかっていく…」
なんか…、いつになく改まった話しっぷりがちょっと気になった…
「…みんなもさ、それぞれ猛る思いの丈で突っ走っていくでしょうから、いずれ、その先に何がしかが目の前を立ち塞ぐこともあるだろうね。決して逃げずにぶつかっていった人間たちが、どこかでまた同舟に辿り着くと思うよ」
それって、再びこのメンツが共通の敵の前で巡り合うっていうことか…?
...
麻衣は続けた…
「…従って、当面は南玉も反南玉もお手々繋いで仲良くは所詮無理だし、その必要もないけど、敵味方って関係に捉えるのはナンセンスだと思うんだ。…祥子、そういうことなんで、仮にアンタとドッグスが南玉に復帰して私はキャビネットのフレーム内に入ったとしても、私はオポジションを意識することなんかないわ。私は自分のスタンスで、どこにいようがカモシカとは向き合っていくつもりさ」
「ああ、わかった。みんな個々で猛っていけばいいんだな。そんで、いつかまた、例えば何か共通の巨大な障害を前に居合わせることになれば、再び手を携えると…。知恵と力を合わせて」
私がそう言ったら真樹子さんが目を細めて続いた
「でも、そう言う時がまた来るのかしら…」
そして麻衣が答えた
「あると思う。そんなに遠くない時期に…」
今度は三田村さんが麻衣に尋ねた
「それ…、例のカンかい?」
「はい…。それと、相馬会長もそんな予測を抱いて、私の後ろ盾をしてくれてる気がするんです」
「…」
3人は無言で麻衣を見つめていた
…
しばらくして、私は麻衣に問いかけた
「麻衣…、相馬さんはその場合、横田競子も”そこ”に絡らんでくるこを織り込んでるんだな?」
「うん、そうだと思う。なんとなくだけど…」
再び真樹子さんが、大きくため息つきながら言った
「ふう‥、もしそんな時が来たとしたら、私たちの前に立ちふさがる”敵”ってどんな連中なんだろうか…。私には想像もつかないわ」
これを受けて、煙草を咥えた三田村さんが訊ねた
「麻衣には、”そいつ”がおぼろげにでも見えるのね…?」
「うーん、そこまでは見えません、正直。でも…、恐ろしく危険な相手には違いないですよ。なんたって、私たち猛る女達が突っ走って、気が付くとみんなが並んで立ち向かってる”敵”なんですから。きっと、ハンパない相手です、それは…」
麻衣は包帯が痛々しい小指を押さえながら、遠い目で呟くようだったわ
...
「うん、まあ、こういった話はまたいずれさ。今日はこのくらいにして、麻衣さんは帰って安静にした方がいいわ」
真樹子さんが切り出した
その通りだ
今日はここまででいい
...
麻衣は笑みを浮かべて頷き、窓口で薬を受け取ったあと、本日の送迎を買って出たアンコウさんと一緒に病院を出ていったわ
イスから立ち上がって二人を見送った後、真樹子さんと私は再度長椅子に腰を下ろした
「…なんだか今日の麻衣さん、相当感慨深げだったわね。まあ、自ら進んで骨折されてきて、ケリつけたんですものね。無理もないけど…」
真樹子さんはしんみりと独り言みたいに漏らしていた
「ホッとしたってのも、あったんじゃないっすかね」
私は相槌を打つかの様な返答しかできなかったよ
そしたら…
...
「以前、麻衣さんはこんなこと言ってたわ。一つ大きなことをやり遂げると、普通の人は充実感に浸れるけど、自分は喪失感に襲われる。それが恐いって…。彼女、子供の時からだったそうよ、そういう感性っていうか、あの人が言うところの心の主の声だとか…。きっと、今もそんな心境に至ってるのかも」
「…」
「それで、次に見据えられるものに自然と気持ちが行っちゃうのね。指の骨が折れて痛くてしょうがないっていうのにさ…」
「真樹子さん、麻衣の次っての、横田競子ということでしっかり定まってるんじゃないの?」
「ええ、彼女にとっては、あのカモシカってことには違いないんでしょうけど…。麻衣さんにはその先が見えるのよ、おそらく」
「どんな?」
「さっき語ってたことかな…」
「えっ?いつか我々みんなの前に立ちはだかる、大きな影ってヤツですか…?」
「よくわかんないけど…。麻衣さんはこの後、横田と競い合って、私達もそれぞれの道を歩む…。その後でさ、みんなが迎える光景ってとこなのかな…」
この時、私には今一つ理解できなかった
いずれにしても麻衣は、これから進む道が更なる危険なロードだということは確信してるんだろう…



