その1
祥子


「津波、じゃあ、行こうか…」

矢吹…

私は火の玉川原の土手上で、麻衣と横田が剣崎さんらとともに車に乗り込んだのを確認したあと、南玉の連中が運転するバイクに挟まれる形で土手上から出発した

言わば私は、南玉の人質だ

南玉総長の合田と横田競子が奴らの手に戻るまでの…

今日の火の玉川原での戦いは終わった

だが、双方の決着はまだこれからだ…

果たしてどのような終結を迎えることになるのか…

とにかく、麻衣が戻ってきてからだな


...


私は南玉幹部の一人、高津のり子の家に移送された

「津波さん、降りて。とりあえず、ここで待機してもらうわ」

高津さんはそう言って、自宅の庭先にある、結構大きな倉庫みたいな建物に私を通した

中へ一緒に入ったのは矢吹さんと相川さん、それに1年が二人か…

「まあ、そこに掛けて」

矢吹さんが折り畳みのイスを開いてくれたわ

そんで、その正面に4人も椅子に座った

はは…、なんか、取り調べみたいだ…(苦笑)

...


「津波さん、夕方はどうも…。ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」

「ああ、どうぞ…」

「あの時、あっこと私は昨日の負傷を抱えていたし、アンタが”その気”だったら、私らを潰すことはできたわ。なぜ、そこまでしなかったの?」

「…私は麻衣側に付いた人間として、与えられた役目を果たした。それ以上でも以下でもないよ」

「そう…」

「だが、アンタとはハンデなしの状態でやりたかった。まあ、そうなれば、今の私が敵う相手じゃないってのは分かったが…(苦笑)」

「…」

矢吹は負傷している右肩に手を当てながら、やや目を細め、私をじっと見つめていたわ


...



「…私からも、あなたにはぜひ聞きたいことがあるわ。本郷麻衣は、一体何を目指しているの?それを、あなたや迫田さん、それとあの岩本真樹子は同じ認識で共有しているの?私にはどうも、岩本なんかとあなたは違って映るんだけど…」

今度は相川さんからの問いかけだった

「私も、麻衣の本当のところはわからないんっすよ。でも、こっちの側のみんなは、今の都県境に凝り固まったフレームは一度ぶっ潰すべきだって、その考えまでは一致してると思いますよ。片桐さんや三田村さんを含めて…」

「…」

「…それを表面上じゃなく、根底からってとこまでなら、私は麻衣が出てこなければあり得なかったと思う…。だから、麻衣があそこまでやったから、アンタ達南玉連合が内包した自己矛盾も表に出たんじゃないですかね…」

相川さんは思わず下を向いちゃった…

...


「昨日、私の学校を襲った迫田は私にこう言っていたわ。”組織に甘んじて何になる。個を磨いて上に立つ人間なら、この惨状を直視しろ”ってね。あなたもそういう思いがある?」

「ありますね。私もリエも、フリーであなた方を外から見てきた。率直に言って、息苦しさを感じましたよ。よく解釈すれば都県境最大組織の使命感に受け取れるが、何様のつもりなのかなって気がしたのも事実です。失礼ながら…」

私はすべて正直に話した

それを、1年も含め、みんな神妙に聞いてくれてたよ…


...


「私、あなただから言うけど、今回で痛感したわ。南玉連合はまさに燈台下暗しだった…。さっきここでね、一枚岩なはずだった荒子体制の南玉連合は、目を覆いたいほどの惨状を晒して分裂したわ。鷹美に突き付けた迫田の言葉が、今胸に刺さる思いよ…」

「相川さん…」

私は少なくともここにいる4人、それに湯本や高津ら、最後まで南玉の精神を捨てなかった連中には、変な話、エールを捧げたい気分だったよ

ひょっとして、麻衣だって同じような思いは心のどこかにってな…