その3
祥子



「ちょっと待って!アンタみたいな大女と取っ組み合いじゃ敵う訳ないから、私はココで汗かく気はないわ。でも、バイク乗ってケンカなら絶対負けない。それなら受けて立つ。今すぐ外でやってもいいし」

迫田だ!

やっぱりこいつは他の連中とは違うわ

「いや、バイク乗ってじゃアンタには勝てないだろう。たぶん…。なら、”それ”で汗かく気はないよ」

私はそう返答したよ

「岩本さん、そう言うことになったわ。だから、私はこの人に負けたことにはならない。承知してくれますね?」

「ええ、承知よ」

いやあ…、何とも抜け目ないな、このバイク女(苦笑)

すかさず岩本さんの言質を取りやがった…

「…なら、他に迫田さんのような申し出がある者は名乗り出て!」

岩本真樹子は返す刀でその他大勢に踏み絵を突きつけたな

この人も間髪入れずで見事だよ

”シーン…”

決まったな、これで…


***


「他にはいないのね?…じゃあ、今日はこれで終了としましょう。今の一部始終は8ミリで記録してあるわ。採用者を決定することになる女性面接官には”これ”を見てもらい、最終選考に残る者を決定します。結果は後日、通知しますので。では、本日はご苦労様…」

うーん、そういうことか…

ビデオ撮影まで手配していたとはね…、はは…(苦笑)

それを基に、ここにいない最終選考の”女性”面接官が今日の2次選考に当たるって訳だ

どうやら今日の大場さんは”飾り”だったらしいな(笑)


***


数日後、岩本さんから私が最終選考に残ったと連絡が来たわ

そんで、3日後らしいや

岩本さん、場所を指定してきた上で時間厳守でってことだわ

まあ、面接官は女と言っていたが、”会場”があの寂れた河川沿いの廃倉庫なんじゃあ、現れる女だって”それなり”だろうさ(笑)

もっとも、それが岩本さん本人ってことも十分あり得るな

先日のあの仕切りぶりなら…


***


”最終選考”を前日に控えた夕方、私は思わぬ情報を耳にした

なじみのプールバー”ジャッカルワン”でキューを握っていたんだが…

後輩が二人、店に駆け込んできてね

「祥子先輩!今さっき耳にしたんですが、南玉に復帰した高原亜咲が再び脱退するそうです!何でも家の事情で、急に遠くへ引っ越すことになったとかで…」

高原が脱退…

「おい、それホントなら、南玉が公認に迎え入れたレッドドッグスとかってチームは誰が仕切るんだ?高原がアタマってことで南玉も紅組の特別承認を得て公認を解禁したんだろう?」

「はっきりはわかりませんが、ウワサじゃあ、次の総長が確実の赤い狂犬、合田荒子が特攻隊長と兼任するとか…」

「そうか…。紅丸さんも結婚で渡米するのは間違いなさそうだし、”向こうさん”も何かとせわしくなってきたな…」

「ええ‥、そうですね」

二人の後輩は顔を見合わせて意味ありげな表情だったな


***


「…それで、祥子さんの方は明日でしたっけ?」

「ああ、昼過ぎにな」

「あのう…、その話がうまく運ぶと、祥子さんは組織を持つんですか?」

「まだなんともなんだわ。何しろ今回は募集主も目的も、今一はっきりしなくてよう。まあ、明日が最終ってことだから、要はそこで全部わかるだろうし、それから決めるよ。今後のことはさ」

「そうですか…、でも私らは今後も祥子さんの側にいたいです。フリーの身じゃなくなっても…」

「はは、まあ何も即、既存の組織に入る訳じゃないし、今、都県境は2年ぶりの再編モードだ。たぶんこれから夏にかけて、いろんな動きが出てくる。フリーといっても、無関係ではいられないだろうさ。このまま我関せずで燻っていられる状況じゃなくなると思う。だからさ…。まあ、お前らとは切れずにやっていくつもりだし、まずは明日の結果だ」

「はい、今後ともよろしくお願いしますよ。なあ…」

「うん。祥子先輩、明日は頑張ってください!私ら応援してますから」

二人は外で彼氏を待たせてるとかで、足早に店を出たわ


***


私はその後、カウンターに座って一杯やってた

ワイド画面のテレビからはニュースで明日の天気とやらを告げていたわ

「…明日の関東地方は発達した梅雨前線の接近に伴い、朝から強風を伴った大雨が予想され…」

やれやれ、明日はバイクも服もびしょぬれ覚悟だな

フン…

どうせ最終面接とやらも、天気同様大荒れってことになるさ

やってやるって‼