その38
夏美



一体、何が起こったのよ!

「今、津波祥子が打ったあれは…、ひょっとして…」

南部さんが鷹美に意味ありげな言い回しで尋ねた

「はい…。裏拳です」

「えー!矢吹先輩、そんな技まで津波さんに伝授していたんっすか?」

南部さんの弟テツヤ君も目をまん丸くさせて、自校の先輩、鷹美に確認してる

「勝負を分ける最終場面での決め技でしたが、タイミングも威力も不十分でした…。これでは刺し違いです。さすがに二人とも、もう立てませんよ…」


...



それは文字通りあっという間の組合いだった

バグジーが立ったあと、すぐさま左からのローキックを相手の痛めている右足首に放つと、バグジーは態勢を崩し右に崩れたわ

それでも何とか持ちこたえ、右足を踏んばって構えを取った瞬間、祥子はそれを待ちかねたように、向かって右に体を回転させると、遠心力をかけた右の手の甲でバグジーの右顔面を殴打したのよ

これが鷹美の授けた決め技だったらしいんだけど…

ところがよ…

なんと、バグジーは向かって左側から入ってくる祥子の顔面を、裏拳で打たれるほんのわずか前に掴んでいた

と言うより、勢いよく祥子が自分の顔を、その凶器とも言える手のひらに飛び込ませた感じだった

次の瞬間、バグジーは祥子の両こめかみを捕えたまま転倒したが、祥子も後頭部を背にして地面に倒れたわ

ジャッジのケイコは両者ダウンを宣して、カウントが始まった…


...



二人はピクリとも動かなかったわ

最高点に達していた歓声は歓声に消され、ほとんど言葉となされない中、両者へのカウントはテンを数えたわ

「両者、10カウントダウンです!ドローです!」

ケイコがサブジャッジの二人に目で確認後、大きな声で、宣言した

ここに激闘は幕を閉じたわ

時間にして、およそ25分弱

それにしても、何と驚愕の結末だったんだろうか…