その17
バグジー



今、私の目に映ってるシーンの痛快さは、ありきたりの言葉で表現できる域を超えてる…

それにしても、バイクの女、いい腕してるな

2台目の方は、左右両利きだろ…

あのスピードで、車上からカマを振り下ろし、そのまま片足でけり倒す…

動体視力と瞬発力、それに跳躍力が常人を超えていなければ、訓練の積み上げだけでは無理な芸当だ


...



ここまでくると、蘇我のアホ加減には、目をそむけたくなるな

あいつら、自分ひとりじゃ何もできないのか…

それに比べて、ここの女たちは堂々としてる

私と戦うことになる女は体が大きいし、佇まいもいい

まあ、負ける気はしないが


...



「おい、砂垣。あのバイクの大群じゃ、勝ち目ないぞ。悪いが、俺はここでは戦わない。よく考えて、周りのバカどもを采配するんだな」

「なんだと、この雇われが!こういう時に率先して戦うのが、お前の役目だろうに、この役立たずが…」

蘇我のクソは、いずれぶっ殺す

「まあ、落ち着けよ、蘇我!あの軍勢じゃ、いくら何でも話にならない。砂さん、ここは祥子と話をつけたほうがいい…」

「そうだな…」

おお、大場のアホ度合いは蘇我ほど重症ではなかったか

もっとも、臆病度はこいつの方が上かもな

どうでもいいが…


...


「…新村、だいぶ長引いてるが、ション便大丈夫か?無理そうだったら、言え」

「なら…、お願い。もう限界っぽい…」

「よし…」

私は新村をタイヤごと持ち上げ、北側の水路付近まで”持って”いった

「今、縄ほどくからな…」

「ありがとう…」

「2分後に来る」

「…」


...



「アンタ、もし私が逃げていたらどうしたの?マズいでしょ、雇われなら…」

「まあな」

「変な人ね、アンタって」

新村は結局、逃げなかった

私はまた、彼女をタイヤに縛り付けて、元の場所に戻した

「…何やってんだよ、バグジー‼話はついたぞ!来週金曜、ここで津波とタイマンだ。しっかり頼むぞ‼」

やっぱり大場もクソだな…


...



「静美ー‼」

「大丈夫だったか、静美…」

「うん、みんな、ありがとう…!」

新村は仲間に縄をほどかれ、涙を流しているな


...



「バグジー、この女だぞ、相手は」

「ええと…、柴崎さんだったかな?私が無敵のあんたを、来週ここでのすことになる、津波祥子だよ」

いいねえ…

体にさほどの差はないし、ハートもでかそうだ

「私の実力の程は、本郷麻衣から伝わってるはずだから、それなりに対策は取ってるだろう。遠慮なくいくから覚悟しとけ」

「ああ、そっちもな」

津波は握手を求めることなく、そのまま去って行った

来週金曜日の夜、晴天を願おう