その2
ケイコ



私は持参した”例の”レポート用紙2枚を、両膝の上に乗せて並べた

「二人には最初に言っとくけど、この報告書は、麻衣が作成したものだよ。これ(マンガ調の全身イラスト)もさ、彼女の手書きらしいや(苦笑)」

「ほう、麻衣がね…。あいつ、こんな絵描くのか。なんか、男か女かわからねえ感じだな、ハハハ…」

祥子の言う通りなんだよね

はっきり言って、絵がへたくそな麻衣としては、無理やり女っぽく描いてるような…

麻衣のことだ

そんなことで、何かを伝えたいという意図からかもしれないが…


...



麻衣のレポートを、いたずらっぽい微笑交じりで目をやる祥子とは対照的に、多美は無表情でそれにそっと視線を垂らしてる

「あのさ、通称バグジーと呼ばれるこのイラストの人物は、星流会が私たちを潰す目的で砂垣グループに送り込んだ、いわば刺客と見て間違いないよ。何でも少年刑務所帰りの凶暴な男(?)ってことだわ」

そこまで話すと、二人とも目つきが変わった

「久美と岩本さんの話によると、麻衣は相和会に入った情報で、この人物を”直撃”したそうだ。それで、知り得た限りをこのレポートにまとめ、久美に授けた…」

ここで多美が大きい目の玉を爛々にして、口を開いた

「麻衣の体当たりの成果なんだろ、これは…。無駄にはできないよ、なあ」

まさにその通りだ


...



「まずは体格的には、祥子より少しだけ大きいよね。まあ、男女差を考慮すれば、パワーは向こうが一枚上と見てた方がいいね。それで、何といっても、並外れた握力だよ。麻衣によると、右手は100を超えてたかもってさ。その源になるスパーンの大きさは、なんと30センチ近いだろうとなってる…」

私たち3人は自分の利き腕の掌を広げ、親指と小指までの長さ、いわゆるスパーンを目踏みした

「おいおい…、ここの幅が30センチ物差しってなら規格外の怪物だぜ」

3人は交互に顔を見合わせて、「ふーっ」と唸った


...



「麻衣の分析が的外れでないとすれば、バグジーは間違いなく、この人並外れた利き腕の握力を武器にして戦いを挑むよね。要は、その戦法を予測して、こちらがその対抗策を今から考えることが喫緊の課題になるよ。それで、握力の強さを最大に活用できる攻め手というと何だろうか…」

「まあ、単純に考えれば握る力だから、掴み技っていうか締め技っていうか…」

「祥子の指摘は妥当だよね。そうなると、相手のどこをってことだね。うーん、実戦のケンカとなるなら、やっぱり首になるんじゃないのかな」

そう言いいながら、多美は自分の首を右手でワシ掴みにしてみせてた

「ここにさ、相和会の情報ってことで、相手ののど元を右手で掴んで、そのまま相手を体ごと持ち上げる殺人技があるようだって書いてあるよ…」

私はその麻衣の書きこみを指さした

「そうなれば、吊り技になるな。仮に体重70キロの私が持ち上げられれば、バグジーって野郎の凄い握力で捕まれたまま、自分の体重が首にのしかかるってことだろ。こりゃ、たまったもんじゃねえわ…」

再び3人は顔を見合わせて、またため息をね…