ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】

その8
祥子


「アハハハ…、静美、あの時掴まれて運ばれたの、病み付きになっちゃったか?」

私は腹を抱えて笑ったよ

あっ…、バグジーは席から立ち上がって、その気になったようだ

「…ここでいいのか?」

「うん、ここでやってあげてよ。…ああ、どうせだからここに来てる人にも見せてやろう。…みなさ~ん!今から握力100キロのこの人が顔面クローのパフォーマンス披露しますんで…。よかったら、カウンター前に来てご覧ください~!」

「ちょ、ちょっと…、祥子さん!やめてくださいよ、そんな…」

ハハハ…、でっかい声で店内にひと宣伝かけると、10人近くがどっと駆け寄ってきたわ

「いいから、いいから。滅多に拝める場面じゃないんだしさ。静美は持ち上げられたら、派手にバタバタ苦しんでるふりしろな」

「えー⁉勘弁してくださいよ…」

あっという間に人だかりになったカウンター周辺をきょろきょろ見回して、静美はオタオタしてるよ

かわいいヤツだ(苦笑)

...


一方のバグジーは表情を崩さず、咥えてたタバコを灰皿に押し消して、私にアイコンタクトだ

どうやらスタンバッてくれたようだ

「では、新村…。楽にしてればいい。行くぞ」

「はい…」

そして、スパン30センチ超という右手の指5本が静美の小さめの顔面を覆った

「おお~~‼」

早くもみんなからは感嘆の声が上がってる

「よし、持ち上げるか。それっ!」

「うわー、体が浮いたぞ!!」

「なんてすごい握力なんだ…!」

バグジーは左手で静美の後頭部を支えるように抑えると、空中に持ち上げた彼女の体を制止した

静美の脚は床から70、80センチくらい浮いてるかな

ふう…、まあとにかく大した握力だわ

私も首を掴んで持ち上げられた、あの時の感触を思い出してきたし(苦笑)

...


「…新村、お疲れだったな。こめかみ、痛くないか?」

「ええ、前回より全然…」

「ハハハ…、そりゃあなあ…」

3人はカウンターで大爆笑だったわ

「ああ、お3人とも、これは僕の気持ちですからどうぞ…」

「えー、いいんですか?」

「今、店を盛り上げてくれたお礼だからさ。静美ちゃん、遠慮なくどうぞ。ああ、バグジーさんも祥子ちゃんも」

「ごちそうさまです~」

はは…、マスターが気を利かせてくれて、特製サンドウィッチをサービスしてくれた

3人はジンジャー片手に腹ごしらえとなった



「でも、バグジーさんには、もうしばらくくココにいてもらいたかったですよ」

「そうだよな。私もさ、アンタがいなくなると正直寂しいや。やっぱりな…。どうしても行くのかい?」

「ああ…。オレもこの地は気に入ったんで、当分腰を落ち着ける気もあったんだが…。好きな女が出来たんでな…」

バグジーは別段、照れる様子も見せずにきっぱりとそう言い切ったよ

何でも、二人でバグジーの生まれ故郷である信州に向かうんだそうだ

その恋人も、相和会に雇われた腕利きの女性で、麻衣の警護に当たっていたそうだし…

この二人が揃ってここを去るということは、要するに、麻衣が”然るべき方面”から狙われる可能性は薄くなったってことなのかな…

私はサンドウィッチをかじりながら、その辺、やんわり聞いてみたわ

...


「でもさあ…、バグジー、アンタはともかく”彼女”は相和会と契約してるんでしょ。問題ないの?期間とか…」

バグジーはまたも、さらりと答えたわ

「期間ってより、任務が終了ってことでな。まあ、問題なくもらうもんはもらえるらしいし」

私はバグジー越しで、静美に会釈してから再度バグジーに尋ねた

「その人の任務って、麻衣を護衛することだったって耳にしてるけど…。なら、麻衣の周辺は危険が去ったって解釈でいいのかな?」

ここはズバリ聞いちゃったよ

あら…、静美はバグジーのこと食い入るように見つめて、返答を待ってるぞ

コイツも麻衣の身の危険ってことでは、えらく心配してるだろうからな

...


「全く安全…、完全に危険がなくなったとは言えない。そう言う見解だよ、相和会はおそらくな。オレも同じだし。まあ、ミカ個人としてもだ。100%大丈夫ってことで、ミカとオレがガードを外れる訳じゃない。そう思ってくれ」

で…、バグジーからもズバリ返ってきたわ

じゃあ、もう一丁だな

「ならさ…、ガード強化を緩める方針になった要因として、少なからず大打を撤退させた事もあったのか?」

「ああ、ある」

そうか…、やはり相和会の方も今回は一応、”それ”で一区切りと見なしてるんだな