ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】

その6
ケイコ


サパークラブ、ベッツに揃ったのは、故黒原盛弘さんの奥さんである吹子さんと私を含め10人だった

南玉連合ツートップの津波祥子と本田多美をはじめ、赤隊の取りまとめ役である岩本さん、墨東会トップの積田さん、砂垣グループからは大場さん、レッドドッグスを代表して新村静美、そして麻衣のパイプ役だった北田久美、それに今回は麻衣のパートナーに就いていた浅土道也さんも…

この難事を共に当たってきた仲間達…

私は枠外で何も力になっていないが、みんなとは”仲間”という意識で事態を見守ってきたよ

そういう意味では今回、麻衣もみんなとは大きな輪の中で、一緒に立ち向かっていたと言えるよな

むしろ、その麻衣こそ、しかるべき敵には最前線で戦っていたと思う

さらに裏舞台でもアイツは奔走していたに違いない

手抜き一切なしで

水面でも、人の目の届かないところだりが、あらん限りのエネルギーを以ってだもんな、麻衣ってヤロウは…

実際…、麻衣の緻密に計算された”関与”がなかったら、今回、大打とかってNGなしと言われたワルがこうもあっさり撤退などしなかっただろう

その一方で麻衣は倉橋さんの婚約者として、業界内の政治的な力関係にも大きく関わっていった

アイツ…、相和会をめぐる、いわばやくざ同士の綱引きにも事実上、加わっていたんだよ

しかも予想をはるかに超えた役割を果たし、一躍業界内の脚光を浴びることになって…

しかし皮肉にもそれは、関東の組織から危険な存在と捉えられる結果を招いてしまったようだわ

”麻衣は関東から狙われている…”

この噂は私を含めみんなの耳にも入っていた

だけど、ここに来て大打一派は立ち去り、直近で関東は相和会に侵攻を謝罪して和解が成立、相和会は東西双方とも均衡状態に至ったようなんだ

砂垣サイドから麻衣のボディーガードに”出向”していたバグジーさんも、役目を終えたという判断の下、近く都県境を出るらしいし

こうした直近事情を鑑みて、今日これから、今後の行動指針を結する集まりとなった訳で…

さあ、この10人でもコトの現状を検証だ!

...


「…以上が麻衣から伝えられた私の報告です。真樹子さん、なんか漏れてませんかね?」

「いや、完璧でしょ、久美。…祥子、特に私から補足することはないよ。進めて」

「了解です。久美、ご苦労さん。…しかしよう、麻衣の動きはスゲーな。改めて驚いたわ」

「…私も今の久美の報告を聞いて、麻衣さん、ここまでやってくれてたなんてって、背筋がぞっとするくらい感激しましたよ」

静美はもう興奮しきっていた

まあ、私も久美の話には衝撃を受けたよ

麻衣、お前は半端ないヤツだよ、やっぱりさ…

...


「…という訳で、ジャッカル・ワンはもう完全に平静状態に戻ったし、ニャンの方も奴らが消えてからは、もう”優良店”に様変わりしてる。久美の報告でもあったように、店と土地の登記名義でも東龍会関連と思われる怪しい会社から名のある企業に売買で所有者が変わったそうだし。これは完全退散であり、奴らへの警戒は解いてもいいじゃないかと見るが、みんな、どうかな?」

全員、祥子の意見に異論はなかった

良かった…!

登記上の所有者まで普通の会社に移ったんなら、もう奴らを完全に撤退させたと思っていいよね

私の中ではここでも、追川さんの言ってた”ひと安心”とが重なった

この場は一気に緊張感が取れ、皆の表情も一様に”ひと安心”が浮かんでいたよ(笑)




「…じゃあ、積田さんと大場さんも他に懸念なんかはないってこといいっすかね?」

「うん。完全撤退…、これで終結。その認識でいい。こっちの動きでも他に気にかかることとかは特にないしな。むろん、今回のこの連携フォーメーションは界隈に目を光らせるって前提でだが」(積田)

「俺も”それ前提”でって捉えてる。まずは、奴らを追っ払えたんだ。俺をぼこった連中とか、大打につながると思われる連中も街では全く見かけないし、今回はこれで解決ってことでいいんじゃねえかな」(大場)

「ははは…、大場さんは災難だったけどさ。まあ、拉致られてボコられてたそのおかげで、万年悪役だった砂垣さんはヒーローに変身できたともいえるかな…(苦笑)」

「まあな、ハハハ…」

祥子の皮肉を受け取った大場さんは、ひきつった顔を作ってから笑ってた

したら、みんなも一斉に大笑いだ、ハハハ…

...


「…吹子さん、みんなはこれで今回は一段落ってことで意見が一致したんですが、どうですかね?」

「うん。一応の終わりでいいんじゃない。みんな、よくやったわ。ケンカもしないで仲良くね。大したもんだよ」

お目付け役の奥さんからも終結宣言をもらうと、みんなは安どの笑みを浮かべ、久美とか静美なんか、抱き合って喜んでるよ(笑)

したら、黒原未亡人の吹子さん…、感慨深げな表情になって…

「いいわね、こういう光景って…。ずっと待ち望んでいた気がする…、黒原盛弘が生きていた時から。ずっと…」

カウンターチェアに座ってる奥さん、いつもと違う感傷的な物言いだった

なんかジーンときちゃった…





そしてしばらく間をおいてから、奥さんはさらにつぶやくように、もう一言漏らした

「でも、ここに麻衣がいたらね…」

この言葉を、ここにいる”仲間たち”は、それぞれの想いで受け止めていただろう

麻衣…!