その2
追川



”伊豆”を終えてのGの分析とアキラから聞いた土橋の話を新たに頭へインプットした俺は、平日午前の商店街で”リサーチ”を開始した

「…麻衣ちゃんねえ、関西の極道大勢を前にして堂々と倉橋さんに抱きついてキスしたんですってよ。もう、みんなうっとりしてたって。そしたら、ごっついやくざ連中が皆、ぜひ麻衣ちゃんと記念撮影したいって、列作って並んでんですって。まるでアイドル歌手よねえ…」

列を作ってか…(苦笑)

「…麻衣ちゃん、わずかその数時間で極道世界のアイドルになっちゃったのよ。そのおかげで、なんか相和会と関西の協力関係もすんなり出来上がっちゃったようよ。凄いわねー。麻衣ちゃんがこっちに戻ってきたら、わたし達も一緒に写真撮ってもらいたいわねーって、今朝から話が持ちきりよ」

こりゃあ、時間と共に話が大きくなっていくな

俺からしたら、”そっち”の方がよっぽど凄いわねーだよ(苦笑)


...


「おお、あんた、元気だったかい?…そうか、雑誌社辞めたのか…」

次に足を運んだこの酒屋のオヤジとも実に久しぶりであったが、俺のことは覚えていてくれてた

「…そうそう、もう朝からカミさん連中は撲殺夫人のお嬢ちゃんで盛り上がってるよ。洗濯もせんと、べラべラやられちゃって参ってる(爆笑)。でもまあ、エライ盛大だったらしいねえ~。なんでも、西の大物たちが勢ぞろいして婚約パーチーが終わった後にはさ、反関東の大団円だったてんだから、相和会は相馬さんが亡くなっても大したもんだ!」

今度は”大団円”か…(苦笑)

「…パーチ―の最後にはさ、伊豆の大親分さんが”演説”したらしいが、鼓膜が破れそうなくらいの拍手が鳴りやまなくて、えーと、何だったっけねえ…、横文字の…。ああ、思い出した。スタンヂングオーベーチョンだ。みんな立ち上がって、ブラボーって会場内は大変なエキサイチングだったそうだわ。いやあ、天国の相馬さんもさぞ喜んだことだろうねえ…」

はあ…、ブラボー?

それに、”スタンディングオーベーション”とかって‥

最初から立食って聞いているんだが…


...


情報到達の速さは言うまでもないが、その”衣”加減の厚さには、ちょっと愕然としたな

まあ、それだけ”受け手”が相和会に対して、好意的かつ強い思い入れがあるってことだろうが…


...


正午前、ジャッカル・ワンに着く

おお、マスターいるわ


...


「…商店街は昨日の”伊豆”で盛り上がってますよ。マスターの耳にも、昨日の首尾は届いてますかな?」

「ええ。今日どころか、昨夜のお客さんが”速報”ってことで、このカウンターでもその話題一色でしたよ」

なんと…、パーティー終了から数時間後か‼

いやはや、言葉が出ない…


...


「主に南玉連合の現役、OGの皆さん、それに墨東会の現役、OBの方々でしたね。麻衣さんって方とは旧友ってことで、皆一様に伊豆での盛会を祝ってましたよ」

ふう…、ここまでとはなんともだ…


...


「…ああ、お客さん。ちょうど、見えましたよ。南玉連合のトップ張ってる方がお仲間と一緒です。どうします、紹介しましょうか?」

これはグッドタイミングだ‼

「ええ、お願いします!中年のオヤジで気が引けますが、麻衣ちゃんのシンデレラぶりは是非、お仲間のお嬢さんたちから聞きたいですなあ…」

マスターは、ビリヤード台に向かっていたその少女たちに駆け寄って折衝してくれてる

よし、絶好の機会を得たぞ

この際だ、麻衣のことを聞けるだけ聞きこんでやる!

俺は大衆雑誌記者の現役時代にすっかり舞い戻っていたな(苦笑)


...



「…ああ、こんにちわ。都県境の商店街の方ですか?」

「ええ、しがない自営業です。加齢臭も気になりだしたオヤジですいませんが、今朝は女房も近所も麻衣ちゃんの話題で大騒ぎでしてね。俺もなんか目新しい情報を家に持ち帰れば、ここに来てることもガミガミ言われなくて済むんで…。ひとつ、飛び切りの最新トピックでも聞かせくれませんかね?お嬢さん達は麻衣ちゃんのマブダチだとマスターから伺ってますし…」

「…じゃあ、最初にこちらからひとつお尋ねしますね。ジャッカル・ワンによく来られるのはマスターに聞きました。で、最近オープンしたジャッカル・ニャンには行かれたことないんですか?」

「一回行きました。でも店の雰囲気が悪いんで、もう行きませんよ。でも、何か意味あるんですかね?」

「いえいえ。ネーミングから、ここの姉妹店と間違えてらっしゃる方が多いんで。でも、実際は似て非なるものどころじゃにない。私はあんないかがわしい店と、ジャッカル・ワンを一緒くたになされる方とはお話しを遠慮させていただく方針なんですよ。それだけです。どうぞ、お気になさらずに…」

ほう…、そういうことかい‼