その1
追川



今日は遅出のシフトなので、朝から行動を開始していた

GK4のGとは電話バージョンで、10分ほどだったが質疑応答を行った

当然、昨日伊豆のホテルで挙行された例のパーティーに関する、第一報を入手するためだ

「…まずは、予想以上の盛会だったそうだ。終始な。西からの業界関係者は、これも事前の想定を上回る約30人が列席し一堂に会した。結論を手っ取り早く言えば、淀の助川さんが3代目体制の相和会とは西傘下に加わらないままで、全面協力の方針を誘導した。そして概ね大多数の賛同を得たであろうということだ」

「言葉を返せば、総数ながら反対もいたということだな?」

「そうだ。さらに賛成の立場を見せた大多数の中には、とりあえず、表面上というレベルが相当数含まれる。従って、今後の状況次第では態度を覆すだろう。おそらく簡単に…。現時点では極めて流動要因アリと見るべきだな」

「式の進行はどんなだったか、その様子を大ざっぱに知りたい」

「うん。冒頭、主役二人の馴初めが”プロ”の司会進行で紹介され、撲殺男の首に刻まれたあの火傷痕に、相馬の血縁と噂された未成年の娘は心惹かれたのが恋の始まりで云々と披露されたそうだ」

「会場内の反応はどんなだったのか」

「倉橋のあの火傷は万博抗争で関西の連中に負わされたことを、業界の出席者は百も承知だ。相和会サイドからしたら、万博抗争のフラッシュバックを狙って、二人の馴初めに作り話を加えたんだろうって解釈が多かったようだな」

なるほどな…

このエピソードが果たして相和会側によるフィクションか否か、俺には定かではない…

だが、”あの夜”ヒールズで間近かに接した麻衣からは、妖しい感性が匂うように伝わってきた

あの子なら、倉橋がその火傷を首に負った経緯を知って、”そこ”を愛しく思うことはありそうだ

単純にそんな感じがしたよ


...


その馴初めの軸となった火傷痕に関して、司会者からのフリに麻衣がどう受答えしたかもGはざっと話してくれたが、それは実に興味深いものがあった

あの子の心の奥深くとは一体…

可能なら本郷麻衣とは更に接して、彼女のことをもっと知りたい

Gの話を聞きながら、そんな気持ちが強くなっていたよ

Gは淡々とした口調で、式の様子を最後までダイジェストで説明してくれた


...


うん、これで伊豆でのセレモニーの全容は大まかに把握できたな

今回のGの報告というか説明は明快だった

相和会としたら、西との関係強化を関西の主だった当事者に理解と同意を得るという”伊豆”での目的は、ほぼ達っせられたとなるだろう

婚約した麻衣と倉橋の二人が、相馬と万博抗争という二つのキーワードの象徴として、参列者にこれ以上ない程のインパクトを与えたことをベースとし、まずは西の御大こと助川太志郎による強い誘導で”方向性”が高らかに掲げられた

更に、五島組や新義友会ら親相和会陣営の存在を随所でアピールし、倉橋に直接火傷を負わせた人物との和解の場面もさりげなく盛り込んだと…

そして最後は明石田による西のメンバー全員に向けた明確な”メリット”の公言で、”主催者”サイドは、それこそ西の業界参列者を畳みこんだって訳だ

新生相和会、あっぱれなり…‼

昨日のセレモニーの”出来栄え”に対しては、これが俺の偽らざる評価だった


...


さて、そうなるとその結果から今後の展開を読み込まなくてはならん

ざっくり言って、昨日の”結果”は関東本家に改めて強い危機感を募らせただろうということだ

言うまでもなく、それは相和会に対する脅威という点に他ならない

これからさっそく、関東は表裏両面で精力的に動く

今回伊豆のパーティーに参列した関係者をはじめ、様々な組織、人物に接触し、相和会と西の連携関係を切り崩す画策、働きかけに打って出たはずだ

その流れの中で、麻衣は業界全体にとって実に微妙な位置づけと見なされ、こと関東サイドからすれば、もはや厄介極まりない存在に達するだろう

もし、今後の状況次第で麻衣の身に何らかの手が及んだとすれば…

場合によっては、一挙に横田ケイコとその仲間、アキラの周辺を含むやくざ枠外へ何らかの影響が波及する可能性もある

そこで俺のやれることだ…


...


午前10時すぎ、俺は再び都県境界隈に入った

今日は先日話を伺ったEさんの他、喜多さんを介して面識のあるこの地域の商店主数人を訪ねるつもりだ

なるべく多くの人から生の声を聞くんだ

リアルタイムで

俺のカンでは、すでに”伊豆での昨日”が彼らの耳には届いている

そうさ、あの業界よりいち早く…

そのカンは当たった

なんと、今さっきGから聞き及んだ昨日の式の”中身”を、一般の庶民が早々と知り得るところとなっていたんだ

これは…、思ってた以上だ!

そして、最初に惣菜店を営む女主人に会ったのだが…