ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】

その11
祥子


「祥子ちゃん…、動きがあったのかい⁉」

マスター…

「ええ…。門前仲通りに入り込んでいた連中は、つい今しがた姿を消したそうなんですよ。ジャッカル・ニャンに乗り込んでる仲間が何らかのアクションを起こした、そのリアクションだと思うんです。…今、この店には奴らの一派とみられる男は、おそらく7人います」

「…」

マスターはふんふんと頷いて、私の話を真剣に聞いてくれてる

年端もいかない私ら女子高生ぶざいが、日本を代表するヤクザとパートナーシップを組んだ強大な敵と対峙する用心棒なのに…

...


「…奴らは今、ここの公衆電話で大打と連絡を取り合ってると思うんで。なので、まもなく動くはずです。静美は今、外で控えてる協力勢力の仲間にその旨を届けに行きました。コトが起これば、この都県境では最大勢力の墨東会から腕っぷし強い男たちも駆けつけてくれますので、安心してください。何分、店内は私を含め5人が張ってますが、いずれもオンナなんで…」

「いや…、祥子ちゃんがココにいてくれれば、なまじの男10人分だ!ハナから安心してるって、はは…。すべて任せるから…。思うまま、思いっきりやっていいから…」

「マスター、ありがとうございます…」

このマスターは私と同郷で、数年前まで北海道の帯広に住んでいたんだ

ある転機があって、この東京埼玉県境でカクテルを飲ませるカウンターラウンジも備えたプールバーを開いてね

幹線通り沿いのルーカスとともに、ウチらワルガキの拠点として、日々ご理解をいただいてるって訳で…

何としても、今まで相和会が徴収対象としなかったショバ代を広域やくざの手先から巻き上げられる事態は阻止しないと‼

...


そもそも…

この度の対相和会攻略と絡めたクソ野郎どもの営業荒らしには、私も断固排除の立場に回ってるんだが…

やはり今の私には”立場”があるんで、奴らの汚い手段で個々のお客を引っこ抜く所業にもずっとセーブを利かせていたよ

それこそ歯ぎしりしながらだったって!

なにしろ、ここの店で私の眼前で奴ら、我が物顔でだったから!

その結果、ジャッカル・ワンはここ最近、ずっと閑古鳥が鳴いていたんだ

私は辛かったよ

だが、私はここ都県境が直面を見た現状をしっかりと直視し、仲間たちと細部まで図って、麻衣の描いた戦略図に沿っての行動を貫いた

それこそ、下の連中や協力勢力まで共同歩調をとり、それを周知徹底してね

それは、今思えば1年前の麻衣が台風の目となった、ファーストレジェンドと括られる再編ムーブメントに根差した必然の展開だったのかもな

実際、”赤い狂犬”こと時の南玉連合総長、合田荒子から指折りというケジメをつけた直後、いみじくも麻衣と三田村さんがおぼろげながら予見していたことだったしね

そして…、更なる季節として、”次の夏”がやってきた…

...

この夏、持病で他界した相和会の相馬会長亡き後の新体制をけん制した東龍会の思惑も働いて、一気に水面下で結託していた”ガキ代表”大打グループを相馬さんが敵の”ガキ代表”に対抗する迎撃勢力の象徴としたのは…!

女子高生二人を遠縁の娘というギミックを以って、おそらくはすべてを予期した上で彼女らを抱え込んでのこの1年半…

その二人こそ、本郷麻衣と横田競子だったわけ!

言ってみれば、この都県境では極道とは言え、コテコテのヤクザである広域組織傘下には決して下らなかった相和会のカリスマ組長、相馬豹一はここ都県境では県警からも一目置かれ、他ならぬ住民たちからも名士扱いされ来たという下地を持っていたから…

よって、麻衣とおけいが喧々諤々ながらも”共同運営”してきた南玉連合を背骨とする今夏連立を見た”カタマリ”こそ、相和会側の地元住民を守る精鋭集団に転化したってことなんだ

だからこそ、私は小汚い挑発をあからさまに繰り返す大打の連中にも軽はずみな行動を押さえ続けてきた

フン…!

ようやくだっての!

麻衣が巨大な敵を覚悟で、怒髪天の火を放ってくれたんだ

それ受けたクソ連中のアクションなら、真っ向から、今この場で受けてやる!

仲間たちとともに…