ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】

その9
祥子


午後3時を回ったとこか…

すでに麻衣はジャッカル・ニャンに到着してるな

アイツのことだ

敵の拠点へ乗り込んだところで、プレッシャーなど微塵もないだろうよ

今頃は超危険な相手とツラを突き合わてるだろうが、むしろ内心ウキウキしながらケンカを売ってるんじゃねーか

三田村さんの読みでは、今日、麻衣の殴り込みに大打グループのてっぺんである大打ノボルがいきなりというのはないということだった

おそらく、初っ端で麻衣と対峙するのは大打の実弟であり、連中の実質ナンバー2らしき武次郎じゃないかってね

でだ…、そいつ、100キロを超すケンカっ早い巨体の持ち主だってことなんで

ハハハ…、こんな輩と面と向かった時の麻衣がどんなだかはさ、もう想像に難くないよ

場合によっては、その場で乱闘騒ぎになる

そうなりゃ、”連中”と我々サイドは事実上の開戦勃発だ

すぐさま、その一報がココにも届く

無論、然るべきクッションを経て

という訳で…、今私はレッド・ドッグスの現トップである新村静美とジャッカル・ワンのカウンターバーで待機し、明らかに”向こう側”とみられる回し者たちを遠巻きに監視中だ

...


「祥子さん…。もうそろそろ麻衣さん、ジャッカル・ニャンでアクションを開始してるんじゃないですかね?」

静美は責任感が強く生真面目だ

半面、そのナイーブさが何かあれば自身を責めて、めげ癖がついてるって難点もある

その性格故、従来からリーダーとしては線が細いという指摘をメンバー内外から受けてきた訳だわ

だがよう、今般の砂垣さん率いる排赤勢力との最終決着局面じゃあ、静美は南玉連合の一走り組織を引っ張る立場でありながら、常に私の傍らで真樹子さんの統括するレディー・キャビネット系列の大所帯を含めた我々反排赤連合軍の先頭をきってくれ続けた

先のスクラップ決戦を決定つけた喫茶レオでのドッグスを嵌める敵の罠にも、それを承知でバグジーに立ち向かっていってよう…

握力100を誇るバケモンの右手で顔面を掴まれたまま、ただ一人敵陣へさらわれながらも、敵さんには面と向かって赤塗り理念の根本精神をケンカ腰で貫いてくれたらしいしな

そこで切ったタンカもさ、静美のまっすぐ、生真面目一色だったのが目に浮かぶが(笑)

そんな猛る女の一本も二本もビシッと通った芯を、砂垣グループに星流会経由で刺客として私たちに挑んだバグジーさんは、静美から感じ取ったんだろう

私とサシで戦ったスクラッププール決戦後、こっちサイドについてくれたのも、静美という等身大の心根がバグジーさんの心を射たとも思えるんだ

はは…、決戦後、砂垣さんサイドとのミーティングで、バグジーのこっちサイド助っ人参陣を一番喜んでたのは静美のヤツだったし(苦笑)

...


レッド・ドッグスでは、麻衣や岩本真樹子さんから特別な扱いを受けていた北田久美の天然ぶりに比べ、地味な静美は何かと損な役どころに収まっていたが、このヤクザ業界ともボーダーレスとなった今回の大打一派と構える局面では、コイツの存在感はドンと突き出てきている感アリだ

そんな静美は、この危険な戦いでも私と最前線を並走してくれる我が右腕と言っても過言ではない!

ならば、コイツにはリアルタイムで、現状そのままんまを共有しないとな