その36
ケイコ



ベッツに到着すると、店の前で多美と静美が待っていた

一応、一緒に中へ入ろうってことで申し合わせをしていたんだ

早速、多美が手を上げて、声をかけてきた

「祥子、おけい!連日お疲れさま。私たちもさっき着いたとこだわ」

「おお、今日はお疲れさん」

私たち4人は一通り挨拶を交わした

「そんで、他はどうだ?もう集まてんのかな…」

「店の中は積田さんと真樹子さんがいるよ。それと黒原さんも。”先方”は、まだ誰も来てない」

祥子が店のドアに向いて尋ねると、多美が説明してくれたわ

「そうか。なら、入るか…」

「うん…」

先頭の祥子は、”サパークラブ”ベッツのアイアン・ドアを勢いよく開けた


...



「こんちわー」

「…いらっしゃいませー。4名様ですね…?なーんちゃってね、ハハハ…」

黒原吹子さんだ‼

「ああ、奥さん、ご無沙汰しています。本日はひとつ、よろしくお願いしますよ」

「祥子、アンタって女、キズとか絆創膏が実に良く似合うわねー。強敵相手に頑張ったらしいじゃん。まあ、今日は良しなにね」

「相変わらずだなあ、奥さんは…(苦笑)。ええと…、多美と静美は挨拶済んだっていうから…」

祥子が私に振り返ったので、一歩前に出て、私もご挨拶だ


...



「横田です…。お久しぶりです、黒原さん」

「横田さん!悪ガキ連中の引率、いつもご苦労様。まあ…‼
随分ときれいになっちゃったじゃないのよ、あなた…」

みんなはニヤニヤしてる…(苦笑)

「南玉抜けた折は、ご挨拶にも伺いませんで…。すいません」

「いいの、いいの。いろいろあったのは耳にしてたしね」

故黒原盛弘さんの奥さんには、今年の春、荒子さんが総長の座を降り、麻衣と私の双頭体制に移行するにあたって、湘南の波沢丈子さんと一緒に立会ってもらってね…

ここで5人による集まりがあったんだ

あの麻衣も、さすがに黒原さんの目が光っていたことで、無茶なマネは自重してたよ


...


「ああ…、真樹ちゃんは厚化粧が長引いてるみたいね。真二郎はトイレなんで、すぐ戻るわ。えーと、その間にそこのテーブル3つ、くっつけておいてくれるかな」

黒原さんの指示でみんなが作業していると、積田さんと岩本さんが店内に戻ったので、下打合せを始めることにした

「…じゃあ、まずは向こうの意向を聞いた上で、今言った段取りに持って行こう。あっちだって、そう強くは出てこないだろし…」

墨東会の現リーダーである積田真二郎さんからの提言には全員が頷いていた

「なら、当面の折衝は砂垣と祥子が話を進めるってことね、積田さん…」

積田さんのお隣に掛けている岩本さんは、今日の進行を確認した

「うむ…。祥子、頼むぞ。俺らも随時フォローを心がけるからよ」

「了解しました、積田さん」


...



そして、時計の針がまもなく午後6時を指そうとしてところで、砂垣さんらが店内に入ってきたぞ

「こんばんわー。ああ、奥さん…、えらいご無沙汰してまして…。エヘヘ」

「ホントよ、順二、かれこれ50年ぶりじゃん。とっくにやくざに就職したかと思ってたけど、まだ指10本あんの?アンタ…」

「はは…、勘弁してくださいよ、奥さん」

これには、もうみんな大笑いだった

なんとも豪快な女性だよなあ…、黒原未亡人は