その35
ケイコ



ああ、そうか!

祥子はジャッカル・ワンの常連だったんだっけ…

埼玉校に移る以前は学校も行かず、そこで年中ビリヤードやってたらしいから

たぶんその関係で、何か思い当たる節があるのかもしれない…


...



「…ジャッカル・ワンのオーナーは私と同郷なんだよ。北海道の日高地方の人でさ。そんなんで、親しくなってね。いい人なんだ。牧場やってた両親が亡くなったのを機に、奥さんの実家のそばってことで、こっちに引っ越してきてね。趣味のビリヤードとカクテルつくりを活かして、相続した牧場の売却資金でプールバーを始めたんだよ」

「…街道沿いで駐車場スペースを広く取ったこともあってか、バイクや車で乗りつける若者とかが集まってさ、店は思いのほか流行ってね。オーナーは言ってたんだ。”ここはショバ代をたかられない風土が根付いていて、すごく恵まれてる”ってね。何度かたかってきたヤクザもんも、相和会の会長さんの気っ風と貫禄が浸透してるから、断ればすぐ帰っちまうそうなんだわ…」


...



「…このジャッカル・ワンってネーミングはさ…、群れで狩りをするジャッカルがイヌ科だってことを掛けてるんだけど、将来2号店を出せるようになったら、ジャッカル・ツーってのも粋なだあって、そういう掛詞も兼ねてるんだよ。それをさ、元祖を茶化すようなパクリしやっがって、この店…!」

まあ、そうだよな…、このチラシの店、ジャッカル・ニャンだもんね

祥子かからしたら、”ふざけんな‼”だよ、やっぱ

でも…、そうなると、この新規オープンするジャッカル・ニャンって店…、誰が…⁉

どうやら祥子…、その辺りには察しがついてるらしい

「…奴ら、オープンはつい最近まで伏せていてさ。つい数週間前からなんだ。マナーの悪い連中をジャッカル・ワンに入り浸らせてよう、お客を追い払うようなタチの悪い行為を意図してくり返してたわ。私がガツンと言ってやろうしたんだけど、オーナーさんに止められてさ。そんで、店を後にしたお客には、外で待機の連中がそこの店のチラシを配ってんだぜ。要は、汚ねえ手段使って、常連客をひっこ抜いてるんだ。許せねえよ‼」

アキラと私は、祥子の話を黙って聞いていた…


...



「…ゴメンな、おけい。つい熱くなっちゃって、余分なこと捲し立ててさ…。嫌な気分にさせちゃったよな、アキラさんにも…」

部屋を出てバイクに乗る前、祥子は申し訳なさそうに言ってた

「ううん、かえって教えてもらってよかったよ。あの店は行かないからさ、私達。でもさ…、その嫌がらせをしてる連中なんだけど…」

「おけい…、たぶんね、その話題は今日の席でも出るよ。って言うか、今後、当面の懸念問題ということで議題に上がるかもな。ただ、おけいには関わらせたくないからさ、今の話は忘れてくれ。今日も聞き流せばいいよ、そのことは。お前はさ…」

祥子にはそう気を使ってもらったが、私が”そのこと”に、おそらくは無関係でいられないのは、直感でわかったよ

ヘルメットをかぶった私の頭には、まだ会ったことのない、”邪悪な人たち”の影が既にちらついていた