その2
麻衣



「雨の中、ご苦労様。ええと、自己紹介してもらおうかしら、まずは…」

「ええ、迫田リエです。よろしく」

「私は相馬豹子。こちらこそ、よろしくです」

「あの、この天気な訳だし、手早く済ませたいんで。こっちから言いたいこと、先に言わせてもらいます。私、一応女子高生ですけど、ここには”プロ”の交渉として割切って来てますから。それだけは承知しておいてくださいね。まずは」

おお、いきなり歯切れのいい宣言だわ(笑)


***


よし!

なら、こっちもぱっぱと行くか

「了解。話が早くていいわ。じゃあ、いくわよ。あなたにはさ、バイクの腕を見込んでこの場に来てもらったの。いい?相手が誰でも大丈夫ね?」

「ええ、大丈夫よ。それで?」

「あなたの”相手”は、高原亜咲。どう、やれる?」

「…ああ、OK、”相手”としても最高だわ。で、どういうシチュレーションなの?」

彼女、即答だった

余程、自分の腕に自信があるんだろう

”あの”亜咲さんの名前が出ても、顔色一つ変えていなかったし

「…うん。第一条件は高原さんを襲撃したというアリバイ、まあ、事実要件ね。従って、対決までは求めていないわ。ただ、実害要件は必須なのよね、今回は」

「それ、肝心なとこだからきちっと答えて欲しいんだけど、高原を傷つけろっていうことなの?」

彼女は真剣そのものの目つきをして、強い口調で私に詰問した

「ううん、あの人は無傷でお願いよ。ターゲットは”後ろ”に乗っかってる人間。そっちをお願いってこと。そういうことよ」

「…あのさ、はっきり言ってくれるかな。こっちも傷害罪とかは恐いんで」

この人、結構せっかちのようね

まあ、反応早くて、私は嫌いじゃないわ

では、そのものズバリ言ってあげる…

「あのね、ターゲットは高原さんの自宅の、隣の住人になるわ。そこの家の長女よ。高1の、足が速くて背の高い子。そいつが”うしろ”乗っかってる時、転倒なりで、ケガさせて。その際の細かい状況設定は、一切問わないわ。任せる、そっちに。仮に止まっている状態でしかけたって、こっちは構わない。どう、できる?」

「…」

うふふ…、さすがにちょっと動揺した様子だ

「あなたが無理なら、”本物”のプロを雇う。でも私としては、本ミッションはなるべくココ、」都県境の女にって気持ちなのよ。さあ、返事ちょうだい」

私は一気に畳みかけた


***


迫田リエはしばらく思案してから、はっきりとした口調で言った

「…」その前に、報酬を聞かせてもらうわ。このミッション完遂の対価は、いくらもらえるんですかね?けっして”楽な”仕事じゃないと思うけど」

「そっちの希望通り出すわ。ただし、”うしろさん”が被った実際の”度合い”によって、さじ加減はつけさせてもらう。その子、陸上部なのよ。できれば、カモシカのような自慢の足、折っちゃって。それがパーフェクト。そこからの差引きはこっちで判断ね」

「フン、あなた、相当にエグイね。しつこいようだけど、仮に大けが負わせて、警察とかは大丈夫なんでしょうね?ブタ箱行きなんて絶対イヤよ」

この辺が請負う立場としては、もっともデリケートになる点だよな

まあ、当然だわ

「相馬という苗字で察しが付くと思うけど、手回しは完全補償と思って事に当たって。もっとも、ヘマ踏んでその場で捕まっちゃったりなんかは自己責任よ」

「よく、わかったわ。じゃあ、ケガの度合いはなり行きもあるし、打撲程度で成功という解釈でいい?そのラインで3本ね」

「いいわ。5本出すわ、そこのラインなら。その上行けば、上乗せする。どう?」

「やるわ。じゃあ、細かい話を聞かせてもらいましょう」

これで、商談成立だ

迫田リエとは、このあと詳細を打合せした

亜咲さんが私のバイクの師匠であることも告げた…

この人、苦笑してたが、別に動じてはいないようだったな

まあ、ドライってことだろうが、ハートは強そうだ

とりあえず、実行場所等綿密に想定を行った上で、連絡をくれるということになった


***


先日、この計画を相和会の大幹部である剣崎さんに伝えた時、あの人は少々驚いた様子だった

私が亜咲さんを心底敬愛していることは、あの人も承知していたからね

剣崎さんからしたら、相馬さんに会って、きっと感化されたんだろうって

ふふ、でもねー、そんなレベルじゃないわよ

あの人から私の中に入ってきたもの…

感覚かな、あえて表現すれば

それが、元々あった私の”素養”と混じり合って、まあ、化学反応みたいなのを起こした

だから、劇的変化には違いない

私はあれ以来、相馬さんの言ったとおり、自分を挑発し続けている

言ってみれば、単に意識の転換を実践しただけかもしれない…

でも、これは相馬さんも言っていたが、誰にでもできる訳じゃない

相馬さんは、私ならそれができると、最初に会った時、既に見切ってた

もう、私、自分でも止められない…

そう確信している