その0
祥子



”ジャッカル・ワン”でキューを握っていたら、肩をたたかれた

振り向くと、南玉連合ナンバー2の矢吹さんじゃん!

「えらく大きな背中だと思ったら、あなただったのね、やっぱり…」

「ああ、こんちわ。ココ、よく来るんすか?」

「ううん。先月、空手道場の先輩に誘われて初めて来てね。なんか、この雰囲気、フィットしちゃって…(笑)」

この人…、笑顔がなかなかいいな

まあ、意外だったわ(苦笑)


...



玉突きは初心者という空手2段に、私はガラにもなく教官役で30分ほど台に張り付いたわ

「いやあ、なかなか難しいわね。ビリヤードって。でも、奥が深くて病みつきになりそうだなあ…」

「はは…、まあ、カウンターで一杯やりましょう」

「カンパーイ!」

ジンジャーエールで同い年の先輩後輩は杯を交わした

へへ…、無論、ダブリの私が後輩ね…


...



「…あれ?この曲、スライダーズじゃない?」

おお、硬派の空手女もロックがわかるってか…

「へー、矢吹さんが、”野良犬にさーえ~”を知ってるなんてねー。ハハハ、こりゃ、愉快だわ」

この人、ここでキャハハって笑った


...



私たちの会話は思いのほか、弾んだよ

「…ああ、荒子とのストリートファイトね…。あのさ…、みんな結末がナゾとかって話になってるけどね…。当たり前よ。朝の登校時に道端で乱闘だったんだけどさ…。すぐ、警察が来るぞって、誰かが叫んだら、私たちの回り、誰もいなくなっちゃって…。要はその後の目撃者、ゼロってことよ」

どひゃーってとこだな、こりゃ…

「…でさ、その後も組み合って膠着状態のところ、ホントにポリちゃんが来てさ…。まあ、ドローよね。でもねえ…、わざわざ当事者が解説しまくる気にはね…。それで…、まあ、今じゃこの都県境じゃあ、都市伝説ってとこよ(笑)」

私はこの話を聞いて、腹を抱えて笑っちゃったよ

いいや、この人…


...



「矢吹さん…、私は麻衣と大雨の中、1対1で戦ったが完敗だった。奴には埼玉の学校まで面倒見てもらったし、まあ、この後はアイツ側で行きます。どういう形でまみえるかはわからないですけど、あなたのことはすっかり好きになった。それは承知しといてください」

「…そうね。たぶん、あなたと仮に向きあうことになったとしても、あまり”あれ”はないかな…。うん、じゃあできるうちに、”これ”、しときましょう」

彼女はごつい右手をすっとカウンターに乗せた

ゴツさじゃ引けを取らない私は、その掌をすくい、ちょうど腕相撲する形にして、ぎゅっとその手を握った

で、眼前の彼女もぎゅっとね…

まあ…、二人は顔を見合わせてさ、頬をほころばせてたよ

しかし…‼

これから一か月も経たず、私ら、敵味方で激突する日が廻ってくるんだ