ベテラン看守は眉間にシワを寄せ、耳元で囁く。

「あいつは数十人の男女を殺している殺人鬼だ。実際のことをいえば、それより多いと噂されている。見た目は可愛らしい顔をしているが、まったくもって裏腹で……いわば狂人」

「えっと……どういうところが?」


恐る恐る尋ねてみた。

看守は、青ざめた顔でポツリと呟く。


「聞いた話によればな。あいつは、下半身と上半身を斧で斬り分けて殺していることが多い。そして上半身だけベッドに置き、死体と交わる。グチャグチャになってる内臓目掛けて、自分のものを入れて興奮する変態……残酷な状態の死体を初めて見たっていう警察官も多い。しかも初期の頃は、人間の肉を焼いて食べていたらしい。あいつに好意を抱くべきじゃない。見た目と言葉は魅力的だがな。油断してると喰い物にされるぞ。目を合わせるなよ」

「え?」


訳がわからず急り顔で、もう一度白髪の青年の方を眺める。

その視線はこちらを向いており、ニコリと口だけで微笑んできた。

はにかんだ笑顔を初めて見たので、興味が湧いてしまう。



「あ、あの……よかったら水でも」

ずっと見られて恥ずかしくなり、頬を赤らめて目を逸す。

その代わり、先程ベテラン看守からもらったペットボトルを差し出した。

これで喉が潤えばいいな。



彼はそれを見て、じっと虚な目で見つめていた。


「もらっていいの?」

「う、うん。もちろ……」

「話しかけるな、死ぬぞ」

「ひっ!?」

(こいつは殺人鬼だ……殺される……)

先輩の囁き声に思わず恐怖が押し寄せ、顔を青くした。

頭に手を当てて肩を震わせ、身動きが取れなくなる。



「大丈夫?水ありがとう、喉乾いてたんだ」



真顔の彼の手には、先ほど僕が握りしめていたペットボトルが!

恐らく恐怖のあまり落としてしまったのだろう。

彼はなんの気迷いもなく、ペットボトルの蓋を開けて水を飲んでいる。



ゴクゴクと軽い音を立てていることから、喉が乾いていたのかも。

満タンだった水が、みるみるうちに減っていく。



飲んでる様も言葉にできないほど美しくて、心が奪われそうになった。

不思議な人だな……。