目を閉じて諦めていたら、殴られることはなく数秒経って目を開けた。

目の前に白髪の長身の男が立っている。

アルマだ。

彼はあいつの握り拳を握りしめて阻止していた。


背後しか見えないので表情はわからないが、ポーカーフェイスなのは明白。


「ねぇ、争いやめようよ」

「なんだ、お前!俺様の邪魔をするつもりか!こいつは看守なんだ。殺して当然だろ!」

「何故そう思うんだ?」

「何?」

「看守も囚人も関係ない。どちらも生きている人間だ。こんな醜い争いに意味があるのか?こいつは弱い人間だ。弱い人間を殺そうとするのは、アンタの心が弱いからじゃないのか?俺を殺してみなよ、できるんでしょ?」

「ぐっ……うるせぇ!俺様が一番偉いんじゃ!看守とお前を殺すのはこの」

「兄貴、やめましょうよ!」

「なんだと……」


背後から声をかけたのは彼の友達であり、仲間だ。

焦り具合から、アルマのことを恐れていることがよくわかる。

額には汗をびっしりとかいていた。


「あいつ、アルマ・テイラーですってば!白い狼と言われて恐れられた悪の根源ですよ!敵いっこありませんって!」

「うるせえな!やらねえと分からねえだろ!」

アジア系の囚人は友達の言いつけを無視し、アルマに殴りかかる。

しかし彼はそれを瞬時に避けて腕を握りしめ、放り投げた。

投げられた男は背中を床に叩きつけられ、グキっと骨の折れる音が響く。

そんなことも気にせずに太い腕を掴み、曲がらない方向に曲げ始めた。

相手は大きな叫び声をあげるが、全くやめることがなかった。

それどころ、脚まで曲げようとしている。

僕はそれを必死に止ようとした。

しかし……。


「ア、アルマくん。それはやりすぎなんじゃ……」

「やりすぎ?どこが?」

「だって相手は痛い痛いって喚き散らして助けを求めているんだよ。苦しそうだから……」

「どうしてそう思うんだ?こんなクズ、首を絞めて殺せばいいさ」


全くというほど話が噛み合わない。

何度もやめろというけど、痛くて泣いている感情がわからないのか止めることなく首を締め始めていた。


周りで見ていた囚人たちは終わったことかのように、皆違うところへ去っていく。

止めることは全くしない。

多分巻き込まれたくないからだ。

やっぱりここにいる奴、アルマ以外全員クズ。


彼は僕のこと守ってくれたし、かわいそうだけど自業自得だ。

本当に死ななくてよかった。