「そうですけど」

「だったら、そこに立っている看守をこのナイフで殺せ。殺人を一度犯したことのある囚人ならできるはずだ」

「え?」

「それともできないと言いたいのか?できないなら……」


胸元からコインを取り出し、それを片手で捻り潰して投げつける。

男は怒鳴り声を上げた。


「お前をコッパミジンにしてやる」


そう言われて、背中に冷や汗をかいてしまう。

顔は真っ青になり、殺されたくないと瞬時に思った。



自分は死にたいわけでもないし、むしろ生きたまま脱獄したいと考えている。

こんなところで死にたくはないけど、看守を殺すなどできない。

殺人なんてやりたくないのに、なぜこんなことに。


やっぱり悪運のせいか?

いやあの幻聴のせいだ。

あれに従ったから、返って囚人たちを裏切ったことになる。

ここは殺さないと看守だとバレて、どっちみち殺される。

ジョナサンを殺すしかない……!!



ナイフの柄を強く握りめ、眉間に皺を寄せた。

先輩が死ぬところなんて見たくないけど、でも自分も死にたくない。

殺されるくらいなら、殺らなきゃ!


腹に向けてナイフの刃を刺そうとしたら、その手を掴まれた。

彼はこちらを鋭く睨み、嫌悪感を露わにする。


「俺のこと殺すつもりか?自分の保身のために赤の他人を殺そうなんてお前らしくないな。俺のことは構うなよ。今すぐここから逃げろ。でないと、お前をずっと恨む」


そう言われて目が覚めた。

自分は何をしでかしたのか、思い返す。


焦りがまさって自分で何も考えていなかったことを思い出し、後悔。

この抗争に自ら突っかかり、自爆しているようなものじゃないか。

なんで囚人の言うことを聞かなきゃいけない。

ここはガルドを潰すしか方法はない。

このナイフで……いや、そんなことしたら囚人どもから反発を喰らうに決まってる。

ガルドはこの監獄のボスであり、死んだら僕のせいにされるだろう。

その後殺されるのがオチだ。


ジョナサンのいう通り、逃げよう。

冷静に考えたらそれしかない。



ナイフを落として、自ら抗争を放棄。

逃げることにした。

が、ガルドは逃げようとした僕の肩を掴み、殺意のこもった視線を向けてくる。

やっぱり殺されるのか?



ビクビクと怯えていたら、浅黒いアジア系の囚人がジョナサンの腕と脚を縛っていた。

縛り終えて、ニコニコと朗らかな笑みを浮かべている。


「いやー、この人腕と脚使えたからこうしないとダメっしょ」

「でかした、アシス。これで殺しやすくなったぞ。しかも座らせたらからな、頭を刺しやすくなった」

「うっ……」