また階段を上り、地下一階。

左に曲がって、さっきケイが向かった廊下を突き進む。

そして右へ曲がって進み、かなり歩くと食堂がある。

食堂に入ってまず目にしたのは、たくさんの囚人どもが叫び声をあげて応援しているところだった。


「いけ!やっちまえ!」

「ガルド、そいつを殺せ!」


そんな内容のどでかい声が響き渡り、抗争が繰り広げられている。

何が起きているのだろうか?

ガルドって確かリークの兄だったっけ?



囚人たちの間を縫って奥に進むと、その争いがやがて明らかになった。

赤毛の筋肉ムキムキの大男ガルドが食堂のど真ん中で、金髪のジョニーと争っている。

こいつらはスポーツ観戦感覚で、囚人と看守の勝負を見ているのだろうか。

ありえない、こんな光景を見る日が来るなんて!


「相変わらずしつけー野郎だな!まだ殴られたいのか?」

「……ぐっ……まだだ……」


ジョニーの口から血反吐が出ていた。

もう戦える雰囲気ではない。

身体も服もボロボロで、息が可呼吸になっている。

立つのもやっとなのか、脚がふらついていた。


それでも助ける勇気が持てない。

もし助けたら自分が看守だと言っているようなもの。

とてもじゃないけど無理だ。

僕には……。


「助けようぜ、ヒロヤ。俺からの命令だ。助けて看守からほうびを貰っちゃおうよ」


頭から声がする。

また幻聴か。




命令……命令ね。


誰の命令なのかは知らない。

それよりどんなほうびが貰えるのか、とても気になってしまった。

誘惑には勝てず、そのままジョニーの前に立ちはだかる。

腹の底から声を上げた。

全体に轟き渡り、辺りがシンと静かになる。


「やめてください!これ以上争うのはダメです!!」

「お前は何者だ?囚人のくせに看守の味方になるだと!!ふざけるな!」

「僕はただ争いが嫌いなだけです。弱い人間をいじめて楽しいんですか!」


僕はケイの言葉を思い出し、大きな声で言い訳した。

本当のことを言うと脚が恐怖で震えており、ちびりそうなほど緊張している。

手が汗で湿っているほどだ。


ガルドの隣にいたアジア系の囚人が、ひそひそと話しかけていた。

それを聞いた彼はナイフを受け取り、眺めてから床にナイフを投げる。

ちょうど自分の足の近くに落ちる。

ガルドは得意げな笑みを浮かべた。


「お前、看守じゃないのだろ?」