見た目やオーラは恐怖心を煽ってくるが、どうやら常識人らしい。

囚人に常識を持ち合わせている人がいると思えば、なんだか好意を持ってしまいそうだ。

しかし、なぜ看守だとバレたのだろうか?


「なぜ分かったのか知りたいようですね」

「ええ、まあ。そうです」


ケイは通路の真ん中で立ち止まり、こちらを向いてきた。

そして僕の方を見ながら、にこりと満面の笑みを浮かべる。


「首のキズです」


そう言われてやっと思い出した。


アルマは胸の傷は治してくれたが、彼自身がナイフで脅してきた時に首へ刺した傷は何も治療されていなかった。

これは盲点だ。


もし暴力を振られただけなら、このような傷はつかないはず。

爪で引っ掻かれたとしても擦り傷程度で済むし、首に穴が開くことはない。



首の傷をどさくさに紛れて隠すと、ケイはまた廊下を歩き始めた。

僕はそんな彼の左腕を掴んで止める。

無言で振り払われ、睨まれると咄嗟に救済の言葉が出た。


「僕を仲間にしてください」


アルマだけではもの足りない気がして、もう1人助っ人が欲しかった。

この人は他の囚人より、しっかりしていて常識人。

仲間にしたら頼り甲斐がありそうだ。


脱獄するためには仲間を増やしておくことも必要だし、信頼関係を築いた方がスムーズに事が進むような気がする。

しかし、彼は振り向くこともせず強い言葉で拒絶した。


「あなたは看守だし、足手纏い。今は必要ありません。使えると思ったら声をかけますが。それに私は常識人ではありません。常識があればこんなところに来てません」

「あの、ケイさんも殺人を犯したんですか?」



そう尋ねると、声の質が変わった。

先ほどより声が低くなり、肩がブルブルと震えている。

思い出し笑いだろうか。



「ええ、そうですね。たくさんの子供が泣き喚くところはすごく可愛かったですよ。肉を削ぐと、血がかかって気持ちいいんです……ククク……」


想像すると吐きそうなのでしなかったけど、常識人だと思ったのは僕の勘違いだったようだ。

争いは嫌いだけど、自分の快楽のためなら殺人を厭わないところはまさに囚人そのもの。

やっぱり狂ってるな……。

思考が理解できない。


「まあ、こんな船に乗っているのはそんな奴ばかりです。味方はいません。誰も信じてはいけませんよ。特にアルマ・テイラー。あいつは危険です」



アルマの名前が挙げられて目を見開く。

あいつのこと、知っているのか?