「そうだ。俺用事ができた。だからさ、先に食堂へ行ってくれない?」

「アルマくんはどこ行くの?」

「資料室」

「資料室って」


資料室について、地図に情報が書いてあったのを思い出した。


資料室は看守しか入ることができず、身分証明となる黄色いカードがないと入れない特殊な場所に分類されていた。

尻を触っていた理由は、カードを盗むためだったのか?

殺意を向けることで、僕が前を向かないように仕向けた。


いや、これはただの憶測だ。

まだそうと決まったわけじゃない。


僕は疑心暗鬼のまま後ろのポケットに手を突っ込むと、カードらしきものがなかった。

なんの感触もしない。

やはり盗まれてしまったようだ。



もしかしてあの優しさも嘘なのか?

だとしたら、僕たちは両思いだったのか?

いやただの片思いだ。

僕の思い込み違いで、自分しか好いてなかったのか。

けど、まだ希望が残っているのなら……。


下を向いて顎に手を当てながら考え事をしていたら、彼はいつの間にかいなくなっていた。

僕のことを無視して、資料室に向かったのか。

一体なんのために?


考えているだけでは分からないので、とりあえず先ほど三人が向かった方へ走った。

T字路まで辿り着けば、階段のある場所と廊下に分かれていたはず。

もし資料室に行ったなら、階段を降りなければいけない。

彼の言った通り、食堂へ行くなら廊下の方に行けばいいが……。

(資料室を目指そう)

確かに彼の言った通り、食堂へ行くのもありだ。

しかし自分の個人情報が盗まれたのだ。

もしあいつが他の囚人に売り飛ばしたら、自分が看守だってバレるし殺されかねない。

あいつのことを信じた僕はバカだったのか。


これは今に始まったことじゃない。

僕の性格はお人好しで根暗な母親にそっくりなのだ。

いろんな男と交わって、金を取られてしまった母親を何度も見てきたじゃないか。

自分もそうなるのではないかと恐怖していた。


実際自分もそんな感じになってしまったが、別に気にする必要もない。

性格を一から直すとなれば、余計なストレスがかかってしまうのは目に見えている。

そんなの御免だ。